梅津晃大がバンテリンドームのマウンドへ戻ってきた。
8月31日のヤクルト戦。久しぶりにドームへ響く登場曲「月色ホライズン」が心地いい。トミー・ジョン手術の前、右腕は「手術という決断を後押ししてくれた球団には感謝しかない。復帰した1球目、今までの野球人生で最高のボールを投げたい」と明かしていた。
もう右肘に不安はない。先頭・内山壮への初球は152キロのストレート。やや力み、ボールとなったが、思いっきり腕は振った。シーズン終盤にはなったが、背番号18がようやく帰ってきた。
「一番(涙が出そうで)ヤバかったのは、復帰後初登板ですね」
復帰から3戦目、9月25日の阪神戦(バンテリンD)。東洋大の後輩・村上に投げ勝ち、8回1失点で1177日ぶりの白星をあげた。
久しぶりのヒーローインタビューでは、涙はなく清々しい表情でスタンドを見渡した。「涙とかは出なかった?」と聞くと、朗らかにこう話してくれた。
「どちらかというと一番(涙が出そうで)ヤバかったのは、復帰後初登板ですね。登場曲が流れ、名前がコールされて、ファンの方の歓声がすごかった。体全身に、整ったアドレナリンが流れ出たのは初めてかもしれません。
だからその反面、(1177日ぶりの勝利は)とにかく嬉しすぎました。勝てばハッピーなので、その気持ちで泣くことはなかった。お立ち台で話して泣くような美談なんてないですしね(笑)。
僕の復活を待ってくれていた家族やチーム。そして信じて応援してくれたファン。わかってくれる人が、わかってくれればそれでいい」
その翌日、たまたま名古屋市内の飲食店でイケメン右腕と遭遇したが、24時間を経過しても喜びに満ち溢れていた。ちなみに、その時は薄いカラーが入ったサングラスをかけて入店してきたが、新進気鋭の若手俳優にしか見えなかった。
梅津は一見クールに見えるが、実は少年のように感情を表現する。
日本ハムへトレードになった郡司裕也を新人の時に紹介してくれたのが、梅津だった。6月にトレードが決まり、ナゴヤ球場で最後の挨拶をしている郡司を見つけると、「うわー、マジで寂しい」と言って1学年先輩の梅津の方から抱擁した。
梅津は郡司のブレイクを4年前から予想していた。郡司が北の大地で暴れていても「いや、郡司はやりますよ。元々秘めているものがすごいから」と涼しい顔。
昨年オフ、東洋大の先輩で今年引退した大野奨太とご飯に出かけた時、先輩からは「梅津、夏場過ぎ。8月に1軍にいればいいから。とにかく焦るなよ」と口酸っぱく諭された。「もうちょっと早く帰ってきたいですね!」と笑いながら返す横顔を見て、どこまでも野球に貪欲で、野球が好きなのだとあらためて感じさせられた。