伊集院光さんを文春野球にお迎えすることになった。ご存知、筋金入りの日ハムファンだ。かつて不人気だった東京ファイターズを伊集院さんが応援してくれてると知って、どんなに心強かったことか。いつも、どんなときも「伊集院さんがこんな見方をしている」というのが僕のモノサシになった。僕も伊集院さんもただのファンではなくて、(昔流に言えばサブカルチャー寄りの)メディア側の人間だ。たとえばラジオで、たとえば新聞や雑誌のコラムで、ファイターズをどう扱うか、ファイターズとどのようなスタンスを取るかをひとに見られている。

 球団の北海道移転が報じられたとき、僕は消極的ながら賛成にまわった。翌年、球界再編騒動が巻き起こる。移転反対の署名活動を始めたファンもいたけれど、それには与しなかった。内情を聞いて、このままじゃ将来、ファイターズが潰れるんじゃないかと思ったからだ。僕はそれを率直に書いた。単に賛成するのじゃない。僕が「賛成するしかない」と思ってることを示したのだ。どう扱うか、どうスタンスを取るかというのはそういうことだ。

 今回のインタビューで僕が尋ねたかったのは主にそこのところだ。伊集院光がファイターズを応援しないわけがない。その生き方を一生貫かないわけがない。関心はそこではないのだ。今のファイターズがどう見えているか、どうスタンスを取るかだ。その言葉は多くのファンのモノサシになると信じている。

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 最高のファイターズファン、伊集院光さんをご紹介しよう。

伊集院光さんはいつも、どんなときもモノサシになる人だ ©えのきどいちろう

「『自分は何番でどこ守ってて、具体的に言うと誰の役割なんだ?』ってすごい考えますよ」

――お久しぶりです。ラジオでエスコンに初めて行ったときの話をされてましたね。そこから行きましょう。自分がターゲット層ではないと感じられたという……。

「お久しぶりです。はい、あのときのラジオで気をつかったというか正しく伝えたかったのは、大雑把に140文字にまとめると『伊集院はエスコン好きじゃないんでしょ』ってなるの嫌なんですよね。エスコンは古いタイプの野球ファンを許してくれるギリギリのとこにいるんだなっていうか……だから手放しで喜べるかっていうと、僕個人は『サウナ入りながら野球見れんだぜ』って誘われたら絶対行かないです。そんな人とは野球見ないんだけど、そのアトラクション性で初めて野球を見る人はいるし、ゴハンおいしいんだねとか、野球わかんないけど情報番組で取り上げられてるエスコンのゴハン食べに行ったら野球盛り上がってて、そっちもまた見にいきたくなったよっていう、そういう勝負だと思うんです。だからエスコンに対する複雑な気持ちっていうか、僕向けではないけれど、あれが成功してくれるのがいちばん良くて、『カープ女子』っていっとき言われてたけど、今はフツーに『女子』のつかないカープファンでしょう。エスコンにその夢を見ますね。開幕戦中継、ゲストに呼んでもらって行ったんですけど、『ゴハンどうですか?』『ホテルから見えるんですよ』っていうのにはほぼ無っていう。自分のなかで無でしたけれど(笑)」

――伊集院さんは野球見ながらゴハン食べないんですね?

「食べないす。食べてる場合じゃない。野球をすごい見てます。コールをすることもあんまりないんですね。だけどやっぱり『おおー』は言うし『うわあー』は言うし『ううー』は言います。たまにアマチュア野球詳しい若手とかと見に行くと『こいつアマチュアのときどうだったの?』みたいな話はしますけど、普段はわりと静かに、ウーロン茶飲みながら真剣に野球見てますね」

ーーあ、ひとと一緒に美術館行くのが苦手みたいな感じですかね。自分のペースで回れないし、気がねなくじっくり絵と向き合いたいっていう。

「そうですね、『僕とチーム』、『僕と野球』って話で、『僕らとチーム』じゃないんです。野球見てるとホント幸せで、ひとりで野球見てるのが一番好きなんでしょうね。行って、野球にたとえて自分のこと考えてるのが好きで。バラエティー番組出るときに『自分は何番でどこ守ってて、具体的に言うと誰の役割なんだ?』ってすごい考えますよ。『踊る!さんま御殿!!』に出演させてもらった時は「奈良原(浩)、金子(誠)でオレは呼ばれてるはずだから、ここで強引にヒーローになりに行くのは絶対違うから右打ちしようとか。4番にちゃんと回せるような話しよう」とか、そうやって考えてるのがどの仕事やっててもしっくりくるし、落ち着いて仕事に向かえる。まぁ、もっと分析するとテレビバラエティーはサッカーの方がたとえに向いているような気はするんですけど、でも、ラジオだと4番でピッチャーである意味、『自分勝手なプレーしたとしても、オレが活躍することが、今日の番組が面白かったことになるんだ』の意識すごいあるし、だから悪いけどオレの前にランナーためてくれよ、オレが打席入りやすいようにしてくれよってなるけど、テレビは違うんです。そういうことをひとりで野球見ながら考えてますね」

「ゴレンジャーごっこをやるときにアカレンジャー選ぶヤツっているじゃないですか」

――そういう野球作法っていうのはどうやって身に付いたんですか?

「色んなことが集まって後から理屈づけしてると思うんですけど、どうやらメジャーなものの端っこが好きなようでして、もしくはマイナーなものの中心が好きなようだっていうのがあって。僕らの少年時代、野球って超メジャー競技じゃないすか。後楽園が近くて、ジャイアンツっていうメジャー中のメジャーがいてそこのチケットはなかなか手に入らないときに、親父の会社が後楽園の年間シート持っててパ・リーグのチケットはもらえたんですよ。日ハムはメジャーな野球ってものの端っこだった。テレビとラジオの仕事でもそれは思ってて、マイナーなものの中心、ラジオのなかのトップになりたい。テレビのなかではマイナーな話題をわかりやすくサポートするというか、そういう性格なんです。これが野球から始まったのか、それにフィットしたのが日ハム観戦だったのかはわかんないんですけど、その感じですよね」

――あー、もう今は死語かもしれないけどサブカルチャーと親和性がありますね。たぶんプロ野球のサブカルチャーがパ・リーグだったんじゃないかなと思うんです。

「そうかもしんないすね。ゴレンジャーごっこをやるときにアカレンジャー選ぶヤツっているじゃないですか。オレは全くそれじゃないんですよ。最後は倒される怪人役で良い。でも怪人役のなかの何を選ぶかには美学がある。みんながアカレンジャーやりたくてジャンケンしてるときに、オレは悪の首領をやるか、あるいはちょっと斜に構えたアオレンジャーやろうか考えてる、体格のままキレンジャーは避けたいなとか(笑)。その気質はちっちゃい頃からあるんだろうな。そう考えると日ハムはフィットしましたね」

――躊躇なくアカレンジャーって人がいるわけじゃないですか、てらいも何もなく。

「はいはい、バカにしてました、当時は。後にそれが選べる気質がスターの素質だというのもわかりました。それを堂々と選べた上でなり切れるやつの神輿しか自分は担げないってこともわかるんです。最初からアカレンジャーやりたいって言って満場一致でそりゃそうだってなるヤツの集まりのなかでアカレンジャー決めてるのが芸能界だから、そこでのアカレンジャー中のアカレンジャーにはついていける。それ以外は斜めに見てるかもしれないです。アンチ巨人になっていったりとか、流行の真ん中にいるヤツに対して斜に構えたりっていうのはずっと続いてるんです」