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「新庄さんを立てられる、落ち着ける、たぶん地味ぃなじじいが要る気がして」

――伊集院さんは今のファイターズってどう見てますか? 新庄さんってズバリ、最初からアカレンジャーの人でしょ。

「新庄さんが日ハムに来た年のキャンプ見に行ったんすよ。僕を見るなり走って挨拶に来てくれて、握手してくれて視線も笑顔も真っすぐで。まさにスター。何を見てもちょっと日陰のとこから見ようとするオレからしたら別格の輝きでしたね。まさにアカレンジャー。ドラマとしてもその新庄と真逆なタイプの小笠原(道大)がいるチームのめちゃめちゃ面白い感じとか、何かあのときの日ハムに役者揃いの感じ、物語揃いの感じは、その手前までの日ハムのサブカル系だったり、知る人ぞ知る面白さって感じとはちょっと違う、『メジャーな物語としての日ハム』の感じすごいしましたね。あそこで日本ハムに出会った人はそりゃあファンになりますよね」

――で、そのときのスタープレーヤーが今は監督です。どう見てますか、新庄監督。

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「僕、こないだバラエティー番組の収録でWBC終わった後の栗山監督に会ったんですよ。みんなの栗山監督への願いは『またWBCの監督やってください』なんですけど、僕の願いは『新庄監督のまま栗山助監督やって下さい』なんですよ。絶対強いと思う。要するに新庄さんをちゃんと納得させながらここから先はダメよをやれる先輩がいないとダメな気がして。プロ野球ずっと長く見てる人は、王助監督を覚えているかもしれませんけど、最近はあまり聞かないポストになりました。GOとストップってテレビでも大事だと思う。アッコさんのそばに峰竜太さんがずっといる理由ってそれだと思うんです。峰さんって下手すりゃほぼしゃべらないで終わるんですけど、アッコさんが危険水域に近づいたときだけ、あの人、身体入れるんですよ。『また意見が極端だ』とか言うんですよ。ホントどうでもいいことを。アッコさんが『女はみんなそうやねん』とか言うときにすーっと寄ってきて『むしろ我が家は逆ですけどね』みたいなやつを入れてくるんですよ。あれを見て、あんまりしゃべってないしいらないって判断しちゃう人も出てくるだろうけど、あの止め方が良いんですよね、アッコさんを安心して走らせた上での、最低限のストップ。この人の安全装置って絶妙だなっていつも感じ入ってます」

――フォロー役、補佐役であり、知恵袋でもあるような存在ですかね。

「ファイターズは新庄さんを呼んだからには、あそこにホントに新庄さんを立てられる、落ち着ける、たぶん地味ぃなじじいが要る気がして」

――栗山監督のときの福良淳一さんですね。そういう人、何となくみんなオリックスに行っちゃったんだよなぁ。

「あー、かもしんないですね。だから、そんな贅沢なことないけど中嶋(聡)さんが助監督だったらいいですよね(笑)。まぁ、だから新庄さんのびっくりするようなグッドアイデアとか、若手を元気づける力とかはちゃんと持ったまま、助言ができたり、ほんの少し軌道修正できる人がいるといいですね」

新庄剛志監督 ©時事通信社

「おそらくどっちかだけに偏ったチームって弱いと思うんです」

――今は林孝哉ヘッドがその役ですかね。林さんがいなかったら回らない。ま、だけど、じじいって年恰好じゃないかな。伊集院さんにはそういうじじい的な存在がいたんですか?

「僕、最初にTBSラジオに呼ばれたときにプロデューサーだった人が永田守さんていうね、大映(現ロッテ)のオーナーだった『永田ラッパ』永田雅一さんの孫なんですよ。『うちでやってよ、TBSでやってよ』って言いに来たのがその人なんですけど、ニッポン放送とうまく行かなくなってた当時、いきなり生放送中に来たんですよ、酔った勢いで。で、あれよあれよという間にスタッフにその場で買ってきたピザ配って、CM中に『TBS来い来い』って言うんですけど、この人、呼ぶだけ呼んでとんでもない引き抜きやった後に一応ディレクターにはなるんですけど、深夜放送の途中に寝ちゃうんですよ、こっちがしゃべってんのに。だけど彼が連れてくるスタッフ全員、地味で有能なんですね。だから『終わりましたよー』って言うと起きてきて、でもこの体制がすごく上手く行った」

――『ドカベン』の徳川監督ですね。

「そうですそうです。呑んで寝てるだけっていう。この人がわかってんのは自分は寝ちゃうから細かいことは出来ないけど、細かいことは出来るけど決断力がないとか、細かいことは出来るけど地味ってのに凄いヤツいるのはわかってる。彼はテレビやってもラジオやってもそこに地味で有能な人材を連れてくるんです。で、その人達に任せるし言うことに耳を貸す。おそらくどっちかだけに偏ったチームって弱いと思うんです。今、日ハムは新庄さんのやりやすい人はいるけど、そればっかりになるともう誰にも止められなくて、そこはベテランのおじさんになってくると『それはなかなかうまく行きませんよ』っていうのはわかる。ただし、ベテランで理論派なのに、新庄監督のひらめきや直感力に耳を貸せるってなかなかいないっすよねえ」

 読者の皆さんはどう感じられただろうか? これだけ愛があって、経験のなかで血肉化されたファイターズ論も珍しいのじゃないか。もちろん、これは伊集院さんの目線で見た「甦れファイターズ!」であり、伊集院さんの正解だ。これはひとつのモノサシ。異論はアリ。読者の数だけ「甦れファイターズ!」があっていい。

 だけど、僕はじじい案、とても面白かった。今は野球のあらゆる側面をデータ化する時代だが、知恵や場数、野球哲学のようなものの「人間の形をしたストック」として、じじいがチームにいる効果(たぶんデータに表れにくい)を想像してしまう。思えばファイターズの野球が痩せてしまったのはベテラン、中堅がチームを離れ、「人間の形をしたストック」としての先輩がいなくなってしまったタイミングとシンクロする。

 インタビューが終わり、僕はお礼を言って、「伊集院さん、頼りにしてますよ」と言い添えた。滅多に会わないけど、頼りにしている。同時代にこの人がいてよかったと思う。話をして、僕ももっとピュアに野球に向き合いたい気持ちになった。野球は本当に楽しい。

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