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「『癖まるわかり』って言われました」

――投球の癖がバレてたって話ありますよね。巨人に球種が読まれてた。

「僕も『癖まるわかり』って言われました。ほぼ当たってるって言われたんで。球種が。僕もあんなに振りまわされるのはおかしいと思って」

――言われたって誰にですか?

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「こんなに振られるのはおかしいってチームのみんな。アツさん(厚澤和幸コーチ)とかコヤノさん(小谷野栄一)とか。全員が全員思ってるっていう。何かあるっていうんで、一回映像で確認したんです。そしたら、確かに癖が出てて。グローブの開きかなんかあったんですよ。7割か8割ぐらい出てるって。それが当たってれば確率的にそっち求めてくるじゃないですか。で、その翌年、交流戦で行ったときは僕、抑えてるんですよ」

――まぁ、巨人にしたらハムのエース打つのが栄冠への近道ですもんね。そりゃ研究しますね。

「みんなから東京ドームで言われた記憶があるんで、たぶん5戦目の後かな。2戦連続いかれたことがなんかおかしいって。もし、言われたのが2戦目だったら直せてるはずなんで。2戦目投げ終わったときなのかな。東京ドームで、それ言われてるんで」

「そんな簡単に振ってくるっていう、詰まることもなくってイメージはあったんで。スライダー打たれたからインコースまっすぐ突っ込んでったら、そのままパーンと弾かれるから、絶対おかしいってなるんで。で、あのときの状態だと、まぁ、こんなに簡単にいかれるはずがないでしょってみんな思ってるんで。140後半バンバン投げてるのにパンパンパンパンいかれるから」

「でも、シーズン中は出てなかったんですよ。癖ありますかって何度も聞いてて。自分の状態が悪いとき、何かごまかそうとして癖って出るんですよね。わかんないんですけど、僕はほぼほぼ癖が出ないんで。キャンプとかで癖見ててもらったときに、僕はほぼ出てないよって言われてきた方なんで。基本出てなかった。ただシーズン終盤に出た可能性がある」

――ヒジの状態がそれだけよくなかったんですね。当時も登板過多が騒がれました。

「2012年は結果も出せていたし、使ってもらって責任もありますから行くしかなかったですね……」

©えのきどいちろう

「ネットスローでバーッと伸びてった投手をいっぱい見たんですよ」

――ちょっと……、僕もシュンとしちゃったんで質問を変えますね。吉川さんは今、ゴールデンブレーブスで投手を指導する立場でもあります。当時、ご自分が経験したことで若い選手に伝えたいことってありますか?

「2軍にいた頃、どうしたらいいかピッチャーの先輩に聞くんですけど、答えが見つからなかったんです。で、パッと閃いた。僕らが対戦するのってバッターじゃないですか。バッターの意見聞かなきゃっていう方向に変わって。それが田中賢介さんと一緒に自主トレするきっかけになって。そこからですかね、自分の考えっていうか目線が変わった。『どんなピッチャーが嫌ですか?』って質問に、1軍の、いいピッチャーの話をしてくれました。すごい嫌なのは涌井(秀章)さんとか、岸(孝之)さんとか、2人ともチェンジアップがいいピッチャーなんですけど。『向かってくるようなフォームで、インコースまっすぐのフォームで、左のチェンジアップに逃げる。こっちはインコースで構えてんのにチェンジアップで外に逃げるから当たらない。狙ってるとこが違う、バッターが嫌なボール投げてくるよね』って言われたんです」

「ピッチャーの自己満足で投げたボールって、自分がいいボールと思って投げてもバッターがフルスイングして打てば、いいボールじゃないじゃないですか。自分が気持ち悪くても、でもバッターが変なスイングしたら、それはいいボールじゃないですか。あぁ、確かにって思って。自分がいいボールっていうより、バッターがどう思うかを重視するようになったと思います。賢介さんに立ってもらって、どうですかどうですか、何が嫌ですか、どういう風に見えますかって、すごいやってもらった」

――バッター目線。意外ですね、投手コーチより田中賢介さんの名前が上がるのは。

「ピッチングコーチだったら小林繁さんです。『ネットスローでしっかり投げようか』って言ってもらえたんですよ。ネットスローでバーッと伸びてった投手をいっぱい見たんですよ。江尻(慎太郎)さんもそうだったし。糸数(敬作)さんもそうだったし。矢貫(俊之)さんも良くなったし。で、僕もよくなった。ネットにしっかり狙って投げるわけじゃないですか。しかも、ゾーンを決めてゾーンのなかでしっかり投げるんです。投げれば投げるほど、この辺で投げたらっていう自分のフォームが掴めてくる。僕のなかでのネットスローって、いちばん自分と向き合える時間かなって思ってる。誰にも邪魔されないし、ただそのネットのなかに投げ込める。どういう風に投げたら、そのネットのなかに行くかっていうのを考えながら投げれる時間じゃないですか。それがいいボールなのか悪いボールなのかは関係なくて。そこに投げれるってことが一番大事で」

「で、そこに投げれたらストライクゾーンなわけじゃないですか。そしたら自信になる。自信になるってことは、こういう風に投げたらストライクゾーンに行くよね、それで徐々に力を入れていける。それが僕のステップアップとしてあるなと思ったんで、今、ちょっとゴールデンブレーブスでやらせてるんですけど」

「まずはそこに投げれるって一番大事だと思うんで。四隅に投げなさいじゃなくて。ストライクゾーンに投げてたら何か起こるよね。打たれても野手がファインプレーするだろうし、野手の正面に飛ぶかも知れないし。ヒット打たれてもランナーが走塁こけたり走塁ミスするかもしれないし、っていう。色んなことでアウト取れるよねって思ってるんで」

「じゃ、まずストライクゾーンに投げようね、じゃ、どういうフォームで投げたらそこに行くのかっていうのをいちばん考えて欲しい時間。それがネットスローだと僕は思ったんで。今、やらせてはいるんですけど。ま、いいか悪いかはその子次第だし、僕が成功したことを試してもらって、いいなと思ったら続けてくれればいいし、悪いなと思ったらやめてもいいし。それで伸びてった人を沢山見たんで、やったほうがいいんじゃないかと思ってます」

 僕は吉川光夫の言葉を聞いて、あらためて惚れ直す思いだった。この言葉は本当に考えて考えて、試して試して、傷もいっぱいこしらえながら、自分の筋道をつくり上げて、ようやく掴み取った言葉だ。その努力の先に2012年の快刀乱麻のピッチングがあった。歴史にイフが許されるなら、ダルビッシュの渡米がもう1年遅くて、あのシーズン、吉川の負担が少しでも軽く、良好な状態で日本シリーズのマウンドに立っていたらと思わずにいられない。

 だけど、ご覧になった通りだ。経験が吉川光夫を磨き抜いている。彼の野球の炎は消えていない。

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