ソフトバンク近藤健介選手に言われるまでもなく、下位チームのオフは長い。

 そして、CSが制度化される前からずーっと日ハムファンをやってる身の上としては、オフの過ごし方がつい上達してしまっている自覚がある。若い頃から続けているのは「野球本を読む」である。スポーツノンフィクション、OBの回顧録、選手の語りおろし、そして『12人の指名打者』(文春文庫)が導いてくれためくるめく野球小説の世界。僕は駆け出しライターの頃、野球小説傑作選『12人の指名打者』に惚れ込み、あぁ、自分の生涯でこういう文章が書けたら文句ないなぁと夢想した。野球が見られないオフの期間は、野球を考え、野球を想う期間だった。いちばん心の栄養になる時間。

 もうひとつ好きなのは「試合の録画をニヤニヤしながら見直す」である。僕はあんまりアーカイブを取っておかない方で、ビデオテープの時代もHDDになってからも、秋のこの時期まで残してある試合は3つ4つがいいとこだ。あぁ、これはまた見たいなと思うやつを取っとくのだが、バカスカ打って大勝した試合かというとそうでもない。「負けそうだったけど負けなかった」とか「何で勝ったのかわからないが勝っちゃった」みたいのが多い。

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 野球の神様の存在を感じる試合。野球の神様がいるとしか思えない試合。昨シーズンなら4月17日ZOZOマリンのロッテ戦、佐々木朗希に8回までパーフェクトに抑えられ、9回益田直也にも沈黙し、延長10回、3番手西野勇士から万波中正がガツンとホームランを放った「たった1安打の勝利」だ。佐々木朗希は前回登板(4月10日オリックス戦)で完全試合を達成したばかりだった。あれは人間の想像を超えていた。オフ期間に何度も見た。

もう負けすぎて負けるのがいやだ。負けるのはつまらない

 で、今シーズンの話だ。実は先日、ヒマを持て余して見てしまった。7月26日、敵地の楽天戦17回戦、先発は楽天が黄金ルーキー荘司康誠、ハムは今季ついにローテに食い込んだ上原健太。これを機にファイターズが上昇気流に乗ったという風な「きっかけになる試合」だったかというと、その後低迷が続くから特段そんな意味合いはない。ただこの試合は重要なのだ。

 ファイターズの連敗が13でストップした試合。

 実に39年ぶりの13連敗中なのだった。この試合に負けたらチームワーストの14連敗に並ぶガケっぷちだ。また前日の負け方が最悪だった。初回、加藤貴之が浅村栄斗に2ランを喫し、何とか1点返したと思ったら8回、2番手ロドリゲスがまた浅村にホームランを食らう。打線はつながらず失点はあっさり。勝ちに見放されたというか、どうやっても勝てなくて、勝ち方がもうわからないところまで来ていた。

 偶然だが同時期、ソフトバンクも12連敗を記録している。同一リーグにそんな大型連敗するチームが2つあるなんて奇妙だが、残りのチームはつまり連勝していたのだ。但し、ソフトバンクは大型連敗しても貯金があった。で、ここが肝心なのだが、この試合の前日、ハムが浅村にポンスカ打たれて負けてる間にソフトバンクは連敗を12で止めていたのだ。

 赤点で追試をいっしょに受けてた「連敗仲間」が先に行ってしまった。孤独である。その寂寥(せきりょう)感。パでいちばん勉強ができない子はオレなんだ。もう負けすぎて負けるのがいやだ。負けるのはつまらない。そんなムードで迎えた楽天17回戦だった。試合録画を見る前にその切羽詰まった感じを思い出してみる。

 この日は荘司の出来がバツグンだった。僕は荘司のピッチングが好きだ。投手らしいしなやかさがあって、さすがドラ1と惚れ惚れする。そりゃ連敗中のファイターズにはなかなか攻略できない。対する楽天打線は初回のチャンスで上原を崩せず、それが尾を引くことになる。上原は今シーズン、投手として一段ステップアップした。大人になったと思う。自分に過大な期待をするのを止めて、できることを徹底するようになった。スーパーエースである必要はない。打者との対戦で仕事ができればいい。そのためにはストライク先行だ。逃げてもしょうがない。どっちみちストライクは放らなきゃならない。とにかく試合をつくる。気持ちが波立つのを極力抑える。