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 それにもかかわらず、本作は350万枚を超える歴代首位(当時)の大ヒット作となり、彼女のキャリアにおいても最高売り上げの記録を保持している。また、「アムラー」と呼ばれる安室ファッションを真似る女子高生たちが増殖し、社会現象にもなった。

結婚、出産、母の死を乗り越えて

 次なる音楽的な転機は、本格的なブラックミュージック指向に移行したことではないだろうか。『SWEET 19 BLUES』発表の翌年である1997年にはドラマ主題歌となった「CAN YOU CELEBRATE?」が200万枚を超える大ヒットを記録。

 結婚、出産、母の死など、様々な出来事があったが、これらを乗り越えながらトップ・アーティストとしてのポジションをキープし続けた。しかし、小室哲哉との強力タッグは終焉を迎え、セルフ・プロデュース期に移行。プライベートでも離婚を経験するなど月日を重ねるうちに、徐々に人気も低迷し始めるのである。

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 しかし、ここで安室奈美恵はくじけることはなかった。音楽性を敢えてディープな方向へとシフトチェンジし、VERBAL(m-flo)、今井了介、ZEEBRAといった日本のR&Bやヒップホップ・シーンの中核にいるクリエイターたちが集まって生まれたユニット、SUITE CHICにジョインする。

 そして、ラップをフィーチャーしたり低音域で歌ったりと実験的なアプローチをすることで、自らの表現の幅を広げていった。これによって、それまでのアイドル的なイメージから本格的なシンガーとしての評価を高め、少しずつ新たなファンをつかんでいったのである。

 SUITE CHICをきっかけに、自身のソロ作品においてもさらに本格的なR&B路線を突き進んでいった彼女は、『STYLE』や『Queen of Hip-Pop』といった硬派なアルバムを発表。T.KuraやNao'ymt、MONKといったコアなR&Bを追求しているクリエイターと組むことが増え、ますますこのシーンにおいての地位を高めていった。

『STYLE』(画像:Amazonより)

 とはいえ、ポップスターとしての立ち位置も意識していたため、ポップさと実験性のせめぎあいのような作品が増えていく。その試みが大きく花開いたのが2007年に発表したドラマ主題歌「Baby Don't Cry」だろう。メロウなR&Bスタイルを踏襲したこの楽曲のヒットによって、13年連続でシングルチャートのトップ10入りという記録を作り、完全復活といえる人気を得ることとなった。

 翌2008年発表のベストアルバム『BEST FICTION』がミリオンヒットになったことも追い風となり、国民的ポップスターでありながら、本格的なR&Bも歌えるシンガーという唯一無二の地位を勝ち取るのである。