もっとも、とんねるずの番組では、セクハラに近いセリフを言わされることもあった。日産のCMが話題を呼んだときには取材が殺到し、そのたびに「ミニスカートをはいてきてくれ」とか、CMのなかで車のシートを長い脚でまたいでいたように「何かをまたいでくれ」と注文されたという。このときの自身の気持ちを彼女は、《それはすごくいやでしたね。下着が見えそうだとか、そういうことはいっさい気にせずに一生懸命オーディションを受けたんですけど、取材では脚のことばっかり聞かれて。視点が違うんだなと思って》とのちに明かしている(『週刊朝日』前掲号)。
セクシー路線と決別、朝ドラヒロインに抜擢
そのまま行けば松嶋はセクシー路線を歩んでいたかもしれない。しかし、ここでも周囲の人が新たな道を用意してくれた。マネージャーが応募してくれたNHKの朝ドラ『ひまわり』(1996年)のヒロインのオーディションに合格し、本格的に俳優の道を歩み始めたのだ。
同作のオーディションで最終選考まで進んだとき、プロデューサーと監督がうなぎ屋に連れて行ってくれた。あとでわかったのだが、じつはそれは、朝ドラは食事のシーンが多いので、松嶋が普段どんな食べ方をしているのか見ようとしてのことであった。本人はそうとは知らず、《「もちろん精いっぱいやりますが、お芝居の経験がないのでどこまでやれるかわかりませんし、自信はありません」と言いながら、デザートまでキレイに全部いただいて(笑)。後でマネージャーに、何てことを言うの!と叱られましたね》という(『ステラ』2019年3月15日号)。
そんな彼女をプロデューサーは正直でいいと思ったらしく、懸念する声もあったなか「絶対この子で」と決めてくれた。後年、当時を振り返った彼女は《そう思ってくださる方の作品に応募したのも運命だったように思います》と、やはり運命を強調している(前掲)。朝ドラに出演した経験から彼女は芝居とはこういうものだと学んだ。現場は心身ともにそうとうハードだったため、撮り終わったときには「これを乗り越えたのだから、今後は何が来ても大丈夫」と自信もつけた。
「お嬢様」というイメージ
『ひまわり』のヒロインは、バブル崩壊の影響から勤め先をリストラされたのち、一念発起して弁護士を目指すという役どころであった。冒頭にあげた反町隆史との対談で、松嶋は自身について「お嬢様」のイメージが強いと話していたが、『ひまわり』を含め、実際に彼女がこれまで演じてきた役を振り返ってみると、そのイメージに当てはまるものが意外とない。
『GTO』の冬月あずさも、本当はキャビンアテンダント(CA)になりたかったのに、仕方なしに父親と同じ教師になったという背景を持っていた。ドラマ『やまとなでしこ』(2000年)で演じた主人公も、貧しい生い立ちゆえ玉の輿に乗りたくてCAになった。
『GTO』の脚本家・遊川和彦とはその後も、『魔女の条件』(1999年)、『家政婦のミタ』(2011年)と、松嶋にとってエポックメーキングとなる作品を一緒につくり上げてきた。前者では教え子と禁断の恋に落ちる高校教師、後者では派遣された家庭に波乱をもたらすミステリアスな家政婦を演じ、いずれも世間にセンセーションを巻き起こしている。