1ページ目から読む
4/4ページ目

 こうして見ると、じつは「お嬢様」のイメージは、松嶋からもっとも遠いものなのかもしれない。普通の女性を演じるにしても、冬月あずさのように何かしら事情を背負った役のほうが、松嶋は本領を発揮できるのだろう。《20代前半頃の“普通の女の子が恋をする”という設定がいちばん難しかったですね。多少、クセとか、枷のようなものがあるほうが演じやすいかもしれません》という当人の言葉(『anan』2011年10月12日号)がそれを裏づける。

 かつて「できるできないは、私が決めることじゃない」と語っていた彼女だが、経験を重ねるにつれ、運命を変えるような物事と向き合ったときには、これまで学んできたことを思い返してみて、自分らしくないこと、自分が嫌いなことはすべきでないと判断を下せるようになったという(『anan』2006年12月13日号)。

『家政婦のミタ』(日本テレビ公式サイトより)

「覚悟を決めて家のことはやらない」

 私生活と仕事にはきっちりけじめをつけている。30代前半で子供を2人儲けてからは、《器用じゃない私はすべてを完璧にはこなせない、やれることには限りがあって出来ないことが当たり前と実感し、いい具合に諦め》られ、いまの優先順位は子育てだと確信できたという(「美ST ONLINE」2022年9月24日配信)。

ADVERTISEMENT

 それでもこれぞと思った作品には出演し、俳優業を続けてきた。連続ドラマの撮影期間中の生活スタイルについて問われると、《“覚悟を決めて家のことをやらない”3か月半になりますね。日常は子供の世話をしたり、家のことをするのが仕事ですけど、その3か月半、私の仕事は俳優業であり、ドラマに捧げる期間になります》と答えている(『anan』2011年10月12日号)。

 昨年、久々に遊川和彦と組んだドラマ『となりのチカラ』では、松本潤演じる主人公の家族と同じマンションに住む、いわくありげな女性を演じた。さらに現在放送中のNHKの大河ドラマ『どうする家康』では、同じく松本潤演じる徳川家康の生母・於大の方に扮し、ドラマの前半ではまだ頼りなかった息子の尻を叩く厳しい母親を好演した。

 作品のたびに新たな役に挑み続ける一方で、松嶋はどんな役を演じても品があるというか、ずっと変わらない部分がある。30代前半の頃に彼女は、デビューしてからというもの《5年、10年、“あの人は変わらないね”といわれる人は、実は変わる努力をしているんだということがわかってきたんです。だから、“変わらないでいられる”ということは、“変わらなければならない”ということなんですね。そのためには、いつも新鮮な気持ち、感覚でいられることが大切》と語っていたが(『CREA』2006年12月号)、その思いはいまも変わらないどころか、年齢を重ねるたび固い信条となっているに違いない。