映画『スター・ウォーズ』シリーズに登場する数多くの宇宙船の中でも、ハリソン・フォード演じる「ハン・ソロ」が駆る「ミレニアム・ファルコン」は人気、知名度とも圧倒的。シリーズ最新作『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』でもその雄姿を披露し、今年6月29日に公開される外伝映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』では、さらなる大活躍が期待されます。
今回は、「ファルコン」研究をライフワークとし、バンダイのプラモデル「PERFECT GRADE 1/72 ミレニアム・ファルコン [スタンダードVer.](PGファルコン)」の開発にも協力した「撮影用モデル研究家」鷲見(すみ)博氏に、「超マニアさえ知らない、とっておきの『ミレニアム・ファルコン』秘話」を語り尽くしてもらいました。単なるオタク知識に留まらない、作り手たちへの敬意と愛情に満ちた物語を、お楽しみください(前後編インタビュー。後編に続きます)。
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「ILMは無秩序状態。スタッフはならず者集団」
―― 鷲見さんは「ミレニアム・ファルコン」の撮影用モデルが実際に作られた場所を訪れたそうですね。
鷲見 ジョージ・ルーカスは、1977年に公開された最初の『スター・ウォーズ』(現在は『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』というタイトル)を製作するため、1975年にロサンゼルス郊外のヴァン・ナイスという街の飛行場近くに、「インダストリアル・ライト&マジック(ILM)」という特撮専門スタジオを作りました。今は看板屋さんになっているんですが、外観は当時とまったく同じ。現地を訪れた時には、本当にドキドキしました。
この建物には左右両端にシャッターがあるのですが、「ミレニアム・ファルコン」は右手のシャッター奥にあったモデル工房で製作されました。また、右手のシャッターの前で、「デス・スター」の空中戦の一部が撮影されたり、有名な水遊び滑り込み大会が開催されたりしました。
―― 水遊び大会ですか!?(笑)
鷲見 当時のスタジオはとても暑かったらしいのですが、スタッフが旅客機の脱出用シューターを買ってきて、そこに水を張って走りこんで滑ったんです。その様子が動画投稿サイトのvimeoに投稿されているんですが、何とも楽しげで。今では超有名になった映画監督や特撮マンが無名の20~30歳代のただの若者で、水着を着て大はしゃぎしてるんです。
現地を訪れた20世紀フォックスの幹部がちょうど出くわして「こいつら何をやってんだ……」と啞然としたそうです。スケジュールの遅れも深刻で「ILMは無秩序状態。スタッフはならず者集団」と認知され、一時は業務停止命令も出た。だけど、彼らがいないと作業がまるで進まないので、やむなく職場への復帰を認められた。
ただ、彼らは遊びまくる一方で、嬉々として猛烈に働いていました。僕も少しお手伝いした写真集『スター・ウォーズ・クロニクル エピソード4、5、6ビークル編』を見ていただくと分かるんですが、約1.7メートルサイズの「ファルコン」は、『スター・ウォーズ』の撮影用モデル中でも際立ってディテールや塗装が凝りまくっています。特に塗装の美しさは群を抜いていると思います。
ディテールも、カメラに決して映らない場所にも作り込みがあります。劇中では全く見えないし、展示会で実物を前にしても見えないぐらいです。
スタッフみんなが一種の躁状態で、持てるエネルギーと技術のすべてを注ぎ込んでいたと思うんです。
―― 「ファルコン」をはじめとする『スター・ウォーズ』の魅力的なビークル(乗り物)たちは、若い奔放なエネルギーのたまものだった、と。
鷲見 ILMのスタッフたちは、『スター・ウォーズ』の公開後に有名になり、中心人物の一人ジョー・ジョンストンは後に『ジュマンジ』や『ジュラシック・パークIII』など、ハリウッドのメジャー作品の監督を務めています。だけど当時はまったくの無名で、元気いっぱいの若者たちだった。「ミレニアム・ファルコン」の製作プロセスを探ることを通じて、彼らの青春をたどることが、僕のライフワークです(きっぱり!)。