今日からできる、パフォーマンスを上げるための「たった1つの方法」とは? スポーツドクターの二重作拓也氏の新刊『可能性にアクセスするパフォーマンス医学』(星海社)より一部抜粋してお届けする。

今日からできる、お金をかけずに「パフォーマンスを上げる」方法とは? ©getty

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パフォーマンス向上には「睡眠」が不可欠

 もっと上手くなりたい。もっと追求したい。もっと高みにいきたい。パフォーマンスの向上を目指す人たちにとって、そのような内的欲求は大切です。こればっかりは何かを伝えようもなければ、共有しようもなければ、サポートしようもないからです。特に若い時代には、多かれ少なかれ「寝食忘れて何かに没頭する」という経験から得られることもたくさんあって意義があると思います。

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 とはいえ、やはり睡眠は大切です。人間の身体は相反する作用で恒常性を維持していますから、睡眠時間を削って練習や活動をすると、交感神経系優位な時間がずっと続いてしまいます。身体的には「絶え間なく喧嘩をしている」「延々と逃げ続けている」状態に近づきます。「いつも戦っている」と「いつでも戦える」から遠のいてしまうんですね。せっかく練習しているのに、上手くなれないのはあまりに勿体ない! ということで、ここでは睡眠とパフォーマンスについて、考えてみたいと思います。

 アメリカのスタンフォード大学が行った研究によると、同大学のバスケットボール部員に毎日10時間睡眠を義務づけたところ、フリースローの成功率が9%アップし、逆に怪我をする選手の数は減るという結果になりました。睡眠とパフォーマンス向上は密接な関係にあることが示されたことで、アスリートには十分な睡眠時間の確保が推奨され、メジャーリーグやNBAではスタジアムやクラブハウス内にスリーピングルームや昼寝スポットがつくられるようになったのです。

 睡眠は「何もしていない時間」ではなく、「脳と身体のグレードアップの時間」です。その医学的背景を眺めてみましょう。

身体をつくる、スピードを落とさない

 トレーニングや練習では、筋繊維が破壊されます。筋肉の強化とは、「適切な負荷をかけることで筋繊維が壊れ、その回復の過程で超回復が起き、筋肉は強く、太く再生される」ことです。この際、タンパク質の合成に成長ホルモンが関わるのですが、この分泌は睡眠中に主に行われ、午後10時から午前2時くらいに最大のピークを迎えます。この時間帯に成長ホルモンの分泌が不十分であれば、タンパク質の合成が上手くいかず、トレーニングの効果も時間も勿体ないことになります。

 また睡眠不足が続くとニューロンの発火が遅くなり、情報伝達に支障が出ることがわかっています。スピードが低下する、反応が遅れる、テクニックが落ちる、などに直結するとあれば、やはり睡眠不足はパフォーマンスにおけるハイリスク因子ですね。