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「頭角を現したのは、中国事業のCOOを経て、2020年9月からユニクロUSAのCEOに就任してからです」

 と、語るのはユニクロ関係者だ。

 2005年の参入以降、北米事業は長らく赤字が続いていた。かつてファストリの社長候補と言われていた堂前宣夫氏(54、現・良品計画社長)や、柳井氏の長男の柳井一海氏(49、現・ファストリ取締役)も苦戦を強いられたほどである。

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『ダメージジーンズ』などヒット商品を開発

 北米は塚越氏にとって入社以来、18度目の転勤だったが、彼はここで強烈なリーダーシップを発揮した。

「塚越さんは新聞、テレビ、SNSなどあらゆる媒体を使って積極的に広告を打ち、ブランド認知度を高めた。一等地にあった不採算店舗の整理も前倒しで行った。ユーザの声を拾い上げながら、『ダメージジーンズ』などのヒット商品の開発にも成功しました」(同前)

 生え抜きの塚越氏が北米事業の責任者として、晴れの舞台に立ったのは2022年4月。決算発表会見に登壇し、ユニクロ創業以来、北米事業が初の通期黒字化が目前にあると説明したのだ。実際、同年8月期決算で初めて黒字化。柳井氏の塚越氏に対する評価はうなぎ登りだった。

 同社にとって、海外とりわけ中国大陸に次ぐ店舗網を持つ北米の収益改善は至上命題となっていた。その点、グローバルでの実績がある塚越氏の、ユニクロ社長への昇格は自然な流れと言える。社内では「既定路線」「なると思っていた」との声が聞こえてくる。

 塚越氏は2023年10月に東京ミッドタウンで行われた2023年8月期の期末決算説明会にも柳井氏と並んで登壇し、「海外ユニクロ事業の収益性は、過去10年で2倍以上に改善した」と自身の成果について強調した。

 こうしてファストリの後継者争いに、塚越氏は“本命”として加わることとなったのだ。

柳井氏は誰を選ぶのか ©時事通信社

“本命”候補たちがファストリを去った過去

 だがこれで塚越氏がファストリの次期社長で決まりかというと、そうとも言えないのが、この会社の難しいところだ。

 それは過去に、何人もの“本命”候補たちが、ファストリを去っていった歴史があるからである――。

 このほか、フリース旋風を巻き起こした右腕が会社を出ていった事情、40歳で社長に抜擢された青年経営者が僅か3年で柳井氏と袂を分かった理由、女性社長や外部招聘の可能性、やはり柳井氏の2人の息子が“本命”ではないかと見られているワケなどを、「文藝春秋 電子版」の「ユニクロの本命と対抗 生え抜き44歳新社長は“後継者”で決まりなのか」で詳報している。