9日午前9時すぎ、自宅の庭でテレビアンテナを修繕していた男性(80)は、一息つこうと椅子に腰かけた。その瞬間、背後から足音もうなり声も発せず突進してきたクマの体当たりを受け、突き飛ばされた。左腕を打撲し、頭をひっかかれて数針縫うけがを負った。ほぼ同じ時間帯、向かいの家に回覧板を届けに行く途中の女性(78)も襲撃された。頭や腕から血を流して倒れ、救助される際、「クマ、クマ」と訴えていたという。他にも散歩中の男性2人が相次いで襲われ、一帯は騒然となった。
「みちのくの小京都」として名をはせる仙北市角館町。黒塀の武家屋敷が連なり、春は桜、秋は紅葉で彩られる。2キロにわたって桜並木が続く桧木内川堤も有名だ。東北を代表するこの観光地にも今月、クマが現れた。しかも日によっては数頭が同時に。人や食料の被害だけでなく、観光までもが打撃を被る事態になってしまった。
クマに遭遇するのは農山村エリアとは限らなくなっている
10日深夜、巡回中の警察官が武家屋敷通りを歩くクマを目撃した。翌11日午後には2頭が桧木内川を泳いで対岸に渡り、郵便局前など町中心部をうろつき回った。13日朝には診療所の敷地内で、体長50センチほどの2頭が高さ30メートル超の木に登り、何時間も上り下りを繰り返した。吹き矢や銃で麻酔を打って眠らせるにも、高い場所にいるので狙うのは困難。しかも周りには住宅やホテルがあるため追い回して捕獲することもできない。暴れず静かに山林へ逃げて行くのを祈り、ただ見守るしかなかった。
町中心部は緊迫した物々しい雰囲気に包まれた。警察が何台ものパトカーで巡回し、「近くにクマがいます。建物の中に入ってください」と連呼。事情をよくのみ込めない観光客はおののくばかり。翌日、工芸品の販売イベントを予定していた団体は急遽、爆竹やホイッスル、クマ撃退スプレーなどを用意し、厳戒態勢を敷いて臨んだ。
北秋田市の中心部では10月19日朝、通学のためバスを待っていた女子高生がクマにかまれるなど計5人が相次いで襲われた。登下校時の児童生徒に被害が及ぶ事態を恐れていたが、ついに現実となってしまった。クマとの遭遇は農山村エリアに限らず、市街地でも常態化しつつある。