記者生活25年で初めての「クマ異常事態」
私は入社以来、大半を社会部で過ごし、長らく環境分野も担当してきたが、25年の記者生活でこれほどの異変に直面したのは初めてだ。秋田県内の山間部で生まれ育ち、山菜採りやイワナ釣りで山に分け入る中でクマを何度も見てきたが、あらかじめ蚊取り線香や鈴などでこちらの存在を知らせれば、相手が先に気づき、そっと姿を消すのが常だった。クマは本来、人間を恐れて会うのを嫌う動物なのだと思う。
ところが近年はすっかり様相が変わってしまった。異常出没の背景には何があるのか。
一つの要因は過疎化、すなわち人口減少ではないかと考えている。人間と野生動物は互いの生息圏を広げるべく、長らく“陣取り合戦”を繰り広げてきた。人間社会はいま、劣勢に立たされているのではないか。
国内全体では明治以降、2004年まで人口増加が続き、森林開発も盛んに進められ、人間側が境界線を押し広げて優勢を保ってきた。一方、秋田県では半世紀ほど早い1956年から減少に転じ、一時持ち直しはしたものの、減少基調をたどっている。過疎化に加え、全国最速ペースで高齢化も進行。山林の手入れが滞り、耕作放棄地が至る所に点在するようになり、かつての田や畑はやぶや雑木で覆われた。クマにとっては陣地に入り込み、生息域を広げる絶好のチャンスが訪れたというわけだ。
人口減少でクマと人間の立場が逆転しつつあるのではないか
それでもこれまでは、一定数を駆除して増えすぎないよう管理してきたため深刻な事態にならずに済んだ。ところが最近は数少ないハンターが高齢となり、有害駆除に使う道具も不足しているため、捕獲が追いつかなくなっている。これが二つ目の要因だ。秋田県は捕獲数の上限を1000~1600頭ほどに設定しているが、過去5年の捕獲数は年間400~600頭台。年を追うごとにクマは増えていき、ついに人間の居住域のすぐ近くにすみ着き、繁殖までするようになった。