例えば里見浩太朗とか中村錦之助は、話しにくかった。向こうがわしらをヤクザだからといって避けるからだ。
人に夢を売る芸能人としては昨今では当たり前だが、今のようにそういった問題が騒がれる前から我々と一線を引いているという行動は偉かったと思う。
そういう場合は、相手を立てるという意味でもこっちは近寄らないようにしていた。逆に若山富三郎はヤクザっぽいところがあり、あの人の舎弟が山城新伍とか、完全に縦社会のわしらに近い感じに見えた。
若山富三郎の弟の勝新太郎はかっちゃんと呼ばれていて面識もあったが、個人的な付き合いはわしはあまりなかった。京都の病院で中村玉緒さんと何回か会った程度だった。プライベートで食事をしたり酒を飲んだりする関係は無かった。
女優と付き合わなかった理由
わしも散々遊んできた方ではあるが、女優と遊んだことはあっても付き合いはしなかった。中にはヤクザ好きの女優もいて、有名な親分が有名女優と付き合っているとかの噂は聞こえて来たこともあったが、実際はヤクザと知ると避けるようになる女優の方が多い。当然の選択だと思う。
京都と芸能界の話はよく巷で噂になるが、それは撮影所があったというのが大きな理由だろう。京都には、名門で金看板の会津小鉄会があった。
東映の撮影所は当時会津小鉄会が揉め事やゴタゴタを処理していたが、会津小鉄会の人間と稲本には付き合いがあった。東映祭という年に1回京都の撮影所で行われた祭りに招待されたりして、そこに来る若手の俳優や前述した俳優と飯を食ったりする交際が始まった。
さすがに今は暴対法や暴排条例でがんじがらめになっていて、ヤクザは反社会勢力と定義されてそれと交際していたら密接交際者で騒がれるご時世だ。隠れて付き合うということはあるだろうが、数はかなり少なくなっているはずだ。
ただ、ヤクザがスポンサーになっている関係もあるし、プロダクションなんかは昔の名残で結構ヤクザが絡んでいることも多いということは今も言えるだろう。