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「啓介さん、お願いね……」

 保育器を抱いて病院を出て行く僕に、ベッドのカミさんが向けた、すがるような言葉と目。本当に大丈夫なんだろうか。もし、この子を失ってしまったら……。保育器を抱えた脇の下から、汗がスーッと流れ落ちたのを、今でも覚えている。

「砂川さん、ご心配なく。私たちも精いっぱい頑張りますから」

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 転院先の病院では、医師の力強い声が僕と未熟児の娘を出迎えてくれた。

「先生、どうか、どうかよろしくお願いします」

 このときの僕にできたのは、かろうじて、声にならない声を絞り出すことだけだった。

僕たちが娘につけた名前は

 絵梨加――。

 これが、僕たちが娘につけた名前だ。カミさんが、字画も配慮して選んでくれた名前。彼女の退院後に二人で区役所に出生届も出しに行き、絵梨加は正式に僕たち夫婦の籍に入った。

 神様、お願いです。どうか、絵梨加を無事に成長させてやってください――。僕もカミさんも、毎日それだけを祈り続け、病院に3ヶ月間、通い続けた。

 寒さが身にしみる12月のある日。僕が病院に行くと、先に訪れていたカミさんが廊下で正座し、保育室の窓に向かって手を合わせて祈っている。僕は背筋に激しい悪寒が走り、血の気がサッと引いた。

「ペコ、どうしたんだ? こんなところに座って」