「あたし、もうドラえもんを辞めたほうがいいのかな……」
2005年にメインキャストが一気に交代したアニメ「ドラえもん」。当時、四半世紀も演じ続けたキャラクターを卒業することになった声優の大山のぶ代さん(90)が抱いた葛藤、そして「ドラえもん卒業後の人生」とは?
長年、彼女を支えつづけたパートナーで、俳優の砂川啓介さん(2017年逝去)の著書『娘になった妻、のぶ代へ』(双葉社)より一部抜粋してお届けします。(全2回の2回目/前編を読む)
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「ドラえもん卒業」の真相
「あたし、もうドラえもんを辞めたほうがいいのかな……」
彼女の口から、そんな言葉がこぼれ落ちたのは、退院して間もない頃のこと。
直腸ガンの手術の後、嬉しいことに新たにガンの転移は見つからず、カミさんは無事退院へとこぎつけた。もちろん、すぐに『ドラえもん』の収録にも復帰している。
実は、当初の予定よりも入院が長引いてしまい、治療の都合から『ドラえもん』の収録スケジュールに合わせられなくなったこともあった。そのため、入院中はカミさん以外のメンバーで先に収録してもらい、フィルムが溜まったら、病院を抜け出して一人、スタジオで録音する。この方法でなんとか切り抜けていたのだ。
だからこそ、退院後もずっとドラえもんを演じ続けるのだとばかり、僕は思っていた。
「ペコ、突然どうしてなの? せっかくガンを取って元気になったのに、どうしてペコにとって一番大事なドラえもんを辞めたいだなんて言うんだい?」
「でもね、啓介さん。私がまた今回のように、急に入院したり、突然倒れたりしたら、迷惑がかかっちゃうでしょ。だったら、元気なうちに自分から辞めちゃったほうがいいんじゃないかなって思い始めて……」
カミさんがそこまで深く考えていたことを知って、僕は何も言葉が出なかった。人一倍、責任感が強い彼女だからこそ、そして我が子同然のようにドラえもんを愛しているからこそ、真剣に悩んでいたんだと思う。
自分のせいで国民的アニメである『ドラえもん』が中断することなど、あってはならないのだ、と……。