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MCが苦手そうだった嵐が見せてくれたもの

―― まさにテレビで人生の方向が定まった瞬間ですね! 振付師にスポットが当てられた番組で思い出すのは『ASAYAN』です。振付師の夏まゆみさんが出てましたけど、テレビを通して振付けの仕事というものには注目していたんですか?

竹中 私、『ASAYAN』の頃のモーニング娘。は意外と追ってなくて。なぜか、河村隆一さんプロデュースの「route0」っていうユニットの回をよく覚えてるんです。韓国の女の子と日本人の女の子の2人組。その韓国の子が「少女時代」のスヨンちゃんなんですよ。私、今もなんですけど、骨格フェチの“シンメ萌え”なんですね。

―― シンメモエ?

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竹中 シンメトリー萌え。辻・加護ちゃんとか。左右対称の骨格が近い2人組なのにキャラクターが全然違うみたいな。なんかそういうプリキュアっぽい感じが好きなんです。

―― 実際にアイドルの振付けを始めて、アイドルの見方は変わりましたか。

竹中 嵐が好きになってから変わりませんね。男性、女性に限らず、アイドルのメンバー同士がキャッキャ楽しそうにしてるのがいいとか、ライブ中に振付けと関係ないところでメンバー同士がふざけてるのがいいとか、そういうところが好き。アイドルに大切なものは、嵐に教えてもらったという気がしています。

 

―― アイドルの「見せ方」の話でもありますね。

竹中 最初の頃、嵐もMCが苦手そうだったんです。楽屋ノリみたいな感じでずっとごちゃごちゃ話してて。でもいつからか、楽屋ノリのノリはそのままで、でもちゃんとお客さんに伝わるように喋れるようになっていったんです。きっと、自由に見せているようでいて、相当な努力と、綿密な打ち合わせをしているんだろうなと思います。私の教え子のアイドルも、そういうふうに徐々に成長していってくれたら嬉しいです。

技術の肯定がアーティストを作るなら、存在の肯定がアイドルを作る

―― まさに振付けの教え子を通してアイドルの成長を目の当たりにしている竹中さんにとって、アイドルに必要なものって何だと思いますか?

竹中 いや、アイドルに大切なものはあっても、必要なものって、あんまりないのかなと思ってます。もちろんアイドル性が高い人はいますけど、アイドル性っていうものは老若男女限らず、万物が持っているものなんです。たとえば私、自分のお姑さんのことがものすごく好きなんですけど、それはめちゃめちゃ“推し”の感覚なんですね。

―― お姑さん推し! でも、その「アイドル性」ってどういうことなんでしょう。

竹中 欠点とか、浮いている感じとか、そういうことも含めて、それでもその人を肯定したくなる魅力をアイドル性というのかな。だから、技術の肯定がアーティストを作るなら、存在の肯定がアイドルを作るっていうふうに思ってます。もちろんビジュアルの要素は必要だと思いますけど、声が高いのも低いのも、ひっくり返りやすいのも、ダンスがふにゃふにゃなのも含めて、アイドルの面白みなんですよね。まぁ、アイドルとしての必要条件をあえて挙げるなら、SNSで余計なことを言わないこと、ぐらいですかね(笑)。

振付:竹中夏海 KANA-BOON「なんでもねだり」

いい大人になってほしいです、教え子には

―― 『浪費図鑑』という本のインタビューで「アイドルがされて嬉しい応援は、肯定されること」っておっしゃってましたよね。

竹中 チケットを買うとか、グッズを買うとか、コンサートに遠征するとか、まさにファンが「浪費」してくれることはありがたいことだと思いますけど、アイドルにとってかけがえのない支えって、肯定されることに尽きるんです。「あのライブよかったね」「テレビで見たよ」っていうツイートひとつが大きな支えになる。欲を言えば、「いいね」より「リツイート」が欲しいところですけどね。ファンが拡がっていくことは、アイドルのモチベーションにもなりますから。

―― 竹中さんの教え子たちには、どんなアイドルに成長していってほしいですか?

竹中 あのね、ホントにね、いい大人になってほしいです。

―― いい大人(笑)。

竹中 ホントにそれだけなんですね。アイドルとしては、売れて欲しいとか、もちろんそういう大人の都合みたいなものはあると思うんですけど、私は別に、商売人ではないし、プロデューサーでもないので。売れて欲しいのはもちろんなんですけど、それより将来アイドルじゃなくなったときに、どこにも馴染めない大人にならないでほしい。そうなってしまうぐらいだったら、売れなくても色んな大事なことをこの世界で学んで、あぁ、あのときアイドルやってたことが無駄じゃなかったんだな、みたいな大人になってほしい。なんか、考え方がいかにも教育者っぽいですけどね(笑)。

 

#1 闇を抱えてた『セーラームーン』女優が、アイドルの振付師になるまで
http://bunshun.jp/articles/-/6667

#3 アイドル振付師・竹中夏海も絶賛 Perfumeのダンスが「すごい」理由
http://bunshun.jp/articles/-/6676

写真=鈴木七絵/文藝春秋

たけなか・なつみ/1984年生まれ、埼玉県出身。2007年、日本女子体育大学舞踊学専攻卒業。HKT48、NGT48などの大型グループからPASSPO☆、アップアップガールズ(仮)などの実力派ライブアイドルまで、担当したアイドルは300人にも及ぶ。ほかにも藤井隆やヒム子(バナナマン 日村勇紀)、スーパーJ POPユニット・ONIGAWARAなど、性別や年齢を問わずアーティストの“アイドル性”を引き出すことに定評がある。
自身のアイドル愛に溢れる視点を生かし、数々のアイドルダンス連載を持ち、「ラストアイドル」(テレビ朝日)の審査員も務めている。著書に『IDOL DANCE!!!〜歌って踊るカワイイ女の子がいる限り、世界は楽しい〜』などがある。公私共にアイドルに特化したコレオグラファー。