カオスな異国の地の探索と、近代医療の外側で心の治療を問い直すフィールドワークは、どこか似ている!? 謎の巨大湿地帯に挑んだ『イラク水滸伝』が話題の高野秀行さんと、文庫版『野の医者は笑う』を上梓した東畑開人さんが、“門外不出”の創作術をめぐって語り合った。
「高野本が参考になったと書かれていてビックリ」
東畑 高野さんとの交流は、8年ほど前に『野の医者は笑う』という単行本を出した時、僕の希望で学会の雑誌で対談させてもらったのがきっかけでした。なぜならこの本は高野さんなしでは書けなかったから。
当時、精神科クリニックを辞めて、沖縄で無職になってたんですよ。それでやることもないし、幾分ヤケクソみたいな感じもあって、「野の医者」=スピリチュアルヒーラーたちのフィールドワークをしていました。と言っても、彼らの治療を受けたり、おしゃべりしたりみたいな感じなのですが、まあようは暇なんです。
そんなある日、地元の図書館で高野さんの『謎の独立国家ソマリランド』に出会って衝撃を受けたんですね。大笑いしながら読んだのですが、まずとりあえず現場に行ってみる、その中でだんだん人間関係が広がり、様々な失敗談で自分を笑い飛ばしながら、謎が深まっていく書き方がものすごく面白い。これだ、と思ったんですね。「野の医者」を書くには、この手法しかない!って。
高野 当時ご本を頂いたんですよね。とくにケアやセラピーの分野に興味はなかったので、どうしてこんな本がうちに送られてきたんだろうって思ったけど、読み始めたらぐいぐい引き込まれて……あれ? 僕の本に似ているなと(笑)。この研究がうまくいくかどうかを調査の対象である占い師に訊いてみたりして、本当に面白くて、何度も爆笑しましたよ。裏事情を全部明かしているんですよね(笑)。途中で、高野本が参考になったと書かれていてビックリしました。
東畑 完全にパクリです。行き当たりばったりで、友達を増やしていくという調査のやり方から、そのプロセスで起きる諸トラブルをそのまま書いて、そのことで逆に謎を解いていく書き方とか。全部まねしました(笑)。こうした手法はどこから来ているんですか?
高野 僕は誰にも習ってないし、文章上の師匠がいるわけでもない。21、22歳の頃にアフリカに探検に行って、その体験記を出版社に頼まれて書きはじめたんだけど、何も書き方がわからない。仕方ないから友達に話すように書いたらたまたまわりとうまくいったんですね。友達に建前で話さないでしょ? だから、自然と裏話の体になるんですよね。
東畑 あぁ、だからデビュー作『幻獣ムベンベを追え』でコンゴに怪獣を探しに行くような話も、大真面目にやっていることを包み隠さず滑稽に書いているから、自ずと裏話的になる文体なんですね。
高野 そのスタイルって読者からの評判はいいんですが、同じ探検部の先輩たちからは「ふざけているのか!」とか、ノンフィクション畑の人たちからは「軽薄だ!」とかさんざん言われてきましたよ(笑)。
今回文庫本で再読して、改めて東畑さんは物語化がすごくうまいと思いました。僕は子供の頃から小説がすごく好きなので、物語の構築の仕方は小説から学んできたんですけど、東畑さんも小説読みます?