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虐待禁止条例はむしろ児童虐待を増やす…「ルールで縛れば虐待は防げる」と考える政治家の残念な誤解

source : 提携メディア

genre : ライフ, 社会, 政治

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ちなみに性的虐待は、それが「ある」だけでも異常事態です。これらの共通点は、異常事態が放置され続けていることです。子の様子がおかしいことに対しての介入がないのです。

話を戻します。

「心中以外の虐待死」では、こどもの死亡事例は0歳児が最多です。直接の死因は頭部外傷と頸部(けいぶ)絞扼(こうやく)(首絞め)以外による窒息(うつ伏せのまま寝かしていたことによるものなど)で、虐待の類型は身体的虐待とネグレクトがもっとも多くなっています。

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ときおり私たちが目にする悲惨な児童虐待のニュース。この背景には、こういった問題が隠れているのがお分かりいただけたと思います。

では果たして、法律や条例の改正や厳罰化は、これら身体的虐待やネグレクトの抑止力となるのでしょうか。

児童虐待は他の「犯罪」とは性質が異なる

令和2年4月に施行された改正児童虐待防止法によって体罰禁止が法定化されました。これが虐待防止の効力になっているのかを見ていきましょう。以下の表は、報告書を基に筆者が作成したものです。

法改正前と後で比較してみます。法的な効力で虐待死を抑制することができていないと言えるのではないでしょうか。

児童虐待を理解するうえで重要なことは、一般的な「犯罪」とは性質が異なるという事実です。法律の抜け穴を狙って行おうとするものではなく、暴力は突発的かつ衝動的に起こりますし、慢性的に無関心であることに計画性も犯罪性もないのです。

私がスクールカウンセラーとして勤務していた時のことです。ある小学校2年生の男の子が校内に掲示されているポスターを見ながら言いました。

「叩くの禁止になったのに、まだ叩かれる」

彼は児童虐待防止法が改正されて、体罰は虐待であると法定化された旨を知らせるポスターを見ていたのです。必ずしも法律による厳罰化が虐待の抑止力にはならないのだと、痛感させられた瞬間でした。

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