「規範意識の希薄な者には法による抑止効果はない」
生田勝義教授(立命館大学)は、法学の観点から厳罰化が抑止力にならないという考察をしています。以下に引用する論文は、危険運転致死傷罪などの法制化に効果があったのかを提起するものなので、児童虐待防止法や冒頭の埼玉県の条例案とは単純に比較することはできません。が、示唆に富む指摘のため『刑罰の一般的抑止力と刑法理論 批判的一考察──』から紹介することにします。
先に結論だけを示すと、
「刑法による犯罪の一般的抑止効果は極めて限られたものであるといわざるをえない。それにもかかわらず、犯罪や逸脱行動の事前予防を刑法に頼ろうとする傾向がますます強まろうとしている」
と述べられています。
なぜ、抑止効果が限られるのかというと、
「そもそも規範意識の希薄な者や規範意識が鈍磨した者に対しては、<中略>本人の認識・自覚がないかぎり、抑止効果をほとんど持たない」(太字は筆者による)
としています。
先に私は、虐待には計画性も犯罪性もないと述べました。親が子を一方的に死なせてしまうような虐待は、親の認識や自覚の問題ではないことがほとんどなのです。
つまり親側の――
①「共感性の欠如と感情のコントロール不全」という精神科的問題
②「規範」への理解力不足や守る意識の希薄さ
これら生来の要因が折り重なって多くの虐待は起きており、かつ厳罰化の予防効果はないに等しいのです。
法律や条例という「外圧」が余計に親を追い詰める
ここまでは「心中以外の虐待死」について述べてきました。
こども虐待死には、もうひとつあります。「心中による虐待死」です。先の高橋医師の指摘によると、この場合には親側の「うつ病」がかなり深く関係しているとのことです。再び報告書に戻ると、この親たちの虐待による子の死因は「出血性ショック」「頚部絞扼による窒息」「溺水」が多く、やはり追い詰められたがための道連れで、親としての責任から心中に至っていることが推察できます。
こういった親たちが法律や条例という“外圧”で、余計に子育てが追い詰められてしまうことも忘れてはなりません。これも、私はひしひしと感じます。