文春オンライン

虐待禁止条例はむしろ児童虐待を増やす…「ルールで縛れば虐待は防げる」と考える政治家の残念な誤解

source : 提携メディア

genre : ライフ, 社会, 政治

note

並行して、親側のストレス要因を減らしていきます。子育ては、こなさなければならない煩雑な作業がたくさんあります。料理、家事、保育園・幼稚園・学校などへの諸手続き……。

こどもが原因で手を煩わされていると思ってしまって、自分の欲求が満たされない不満の矛先が、こどもへと向くことがあるようです。なので、こうした要因になりうるストレスを取り除いていく必要があります。そうすることで、親と子の適度な距離を保つことができます。無理に距離を縮めようとしてはいけないのです。

一方、うつ病による育児不安などの問題がある場合に大切なのは精神科治療です。薬物療法だけでは不十分なので、深いカウンセリングの導入も検討するといいでしょう。なぜ育児と将来に悲観してしまうのかの糸口がつかめれば、やがて回復していくはずです。

ADVERTISEMENT

以上はカウンセラーとしての私の経験です。

児童虐待は法律の規制の範囲外で起きている

福祉的ニードを充足しないまま親と子の距離を縮めようとしてしまったこと、うつを抱えている人に余計ながんばりを強いてしまったことが、私にもありました。

いずれも、親子ともに、支援者であるはずの私が追い詰めてしまったのです。親らしくあってほしいという願望が、私にそうさせてしまったようです。

重要なのは、親が持っている能力以上のことをさせないようにすることです。

「親の責任を果たしてほしい」と思わずに割り切って、できない部分は誰か(どこか)が補うことも大切です。私は度々、これが虐待の抑止力になることを実感しています。

児童虐待は、法律で規制できる範囲外のところで起きているのです。そのことを私に教えてくれたのは、児童虐待を生き延びた“サバイバー”たちでした。

私たちができることは、児童虐待を「規制」することではなく「理解」することなのではないでしょうか――。

植原 亮太(うえはら・りょうた)
精神保健福祉士
1986年生まれ。公認心理師。汐見カウンセリングオフィス(東京都練馬区)所長。大内病院(東京都足立区・精神科)に入職し、うつ病や依存症などの治療に携わった後、教育委員会や福祉事務所などで公的事業に従事。現在は東京都スクールカウンセラーも務めている。専門領域は児童虐待や家族問題など。
虐待禁止条例はむしろ児童虐待を増やす…「ルールで縛れば虐待は防げる」と考える政治家の残念な誤解

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー

関連記事