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「やりがいがあります。只見線のガイドもそうですが、渡し舟の船頭をしながら、奥会津の魅力を伝えられるのです」と大越さんは目をキラキラ輝かせる。

口下手だし、なまっているし…それでもガイドをする理由

 そんな大越さんに星さんは「私の跡を継ぐような人材に育ってほしい」と期待を込める。

 金山町に移住した大越さんが只見線に乗る回数はどうなったのか。なんと、倍ほどに増えた。

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 只見線で買い物に行く。

 夏場は冷房が効いているので夕涼みに乗る。

 休みの日には「趣味で」ガイドをするために乗る。ただ、「自分にはガイドが向いていないと思うんです」と大越さんは苦笑いする。「口下手だし、なまっているし……。それでも話したくなるのは、地元の皆さんがいろんなことを教えて、育ててくれたからです。そうした方がいるから、奥会津にのめり込んでしまう」と話す。

 息抜きで只見線に乗ることもあるのだという。「ボーッとしたい時です。乗るとホッとするのは、奥会津の時間の流れと一緒で、只見線がのんびりしているからでしょうか。遅れても文句を言う人はいません」。

 只見線に課題がないわけではない。不通区間だった会津川口-只見間は1日に3往復しか走っていない。これでは生活路線として使えないし、観光をするにも難しい。「せめて5往復はないと」と大越さんは力を込める。

会津川口駅。停車時間には多くの人が車両や風景を撮影する

 それができないなら、空白の時間を埋めるバスを走らせるなど、交通手段をミックスさせて利便性を高められないかと考えている。駅に着いてからの二次交通の充実も重要だ。

「本数が少ないので、駅で下りたら不安になる人もいます。その駅で何ができるか。見どころを回るモデルコースはあるか。もっと発信していかなければ」と語る。

「次は来てくれる人の橋渡し役になりたい」

 只見線は全線運行の再開から2年目の秋が過ぎた。

「これからは満員だった乗客数が落ち着いていく」と大越さんは見ている。一瞬の賑わいで終わらせないためには、そうなってからが勝負だ。

 大越さんは「つなぎ役になりたい」と話す。

「鉄道は人と人をつないでくれます。私も只見線がきっかけで、いろんな縁が生まれました。次は来てくれる人の橋渡し役になりたい」

 そうしてつないでいくことが、大越さんのような「奥会津愛あふれる人」を増やしていくのだろう。

 大越さんが「世界一只見線に乗った」のは意図してではない。奥会津を愛するがあまり、結果として只見線に乗る回数が増えたのだ。正しく言えば、「奥会津が好きすぎて世界一只見線に乗ってしまった男」である。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。次のページでぜひご覧ください。