東京に戻ろうと思った
そうなると散歩か買い物に行く以外、広大な海の見える部屋から食堂と露天風呂、館内のジムに行く以外誰とも話すこともなく、一歩も外に出ないで部屋に引きこもっている日常が続くことになる。この地に私がいる必然性は全くなく、私はこの地では何もしないだろうし、何もできないだろうと思った。ただ死ぬのを待つだけか? と毎日痛飲する。このままいたずらに時間は過ぎてゆき、老いさらばえて死んでゆくのだろうか。そう思い、なんともやりきれないでいた。
最終的に、私は何かしらの可能性がある「都会」に戻ることを決意した。歌舞伎町の雑踏を歩きたい、たくさんのライブや映画も演劇も見たい。色々な催事にも参加したい。会社での復権も果たしたい。若い連中と酒を飲み、親しい友と友情を交換し、私を含めて連中の最後をも見届けたいと思った。そうするには、ここは東京から離れすぎている。
今更ながら、この老人ホームに入居するのはちょっと10年早かったのかもしれない。重い病気にかかったり、ヨロヨロになって歩けなくなった時こその老人ホームだと実感している。
退去の費用は…なんともよく散財したものだ
最後に少しだけお金の話を。この老人ホームでは、共益費、基本サービス料として毎月20万円弱かかる。その他に生活費や交通費、電気水道料金とか酒代とかで10万以上はかかってしまう。入院することになったらさらに大変だ。
私の場合、入居金は6000万円だった。90歳になるまでの13年間をこのホームで過ごせば、全額が償却される契約だ。もちろん部屋の売り買いはできない。退去するとなると2年分の居住費などに加えて、入居金の2割弱(1000万円ほど)が問答無用でさっ引かれる。あとは部屋の原状回復費用とかで、いくら請求されるのかわからない。
ソクラテスは「ただ生きることではなく、よく生きること」「よく生きるためには何をすべきか」と説いた。今私はそれを肝に銘じている……。