立役者はポンペオCIA長官
米朝首脳会談の提案は、2月の平昌五輪開会式での「五輪外交」がスタートだった。
金正恩委員長の特使として訪韓した実妹、金与正朝鮮労働党第1副部長が韓国の文在寅大統領との会談で金委員長の親書を手渡して、文氏の訪朝を要請した。その際、文氏は即答せず「南北関係の発展には米朝対話が必ず必要だ」と米朝関係の改善を条件に掲げた。その直後、文大統領はトランプ大統領に電話している。
そして3月5~6日、韓国の特使、鄭義溶(チョン・ウィヨン)大統領府国家安保室長と徐薫(ソ・フン)国家情報院長が訪朝、労働党本部で金委員長から歓待を受けた。
その際、鄭、徐の両特使は金委員長からトランプ大統領への親書を預かり、8日に訪米した。同日ホワイトハウスで、H・R・マクマスター大統領補佐官、ジーナ・ハスペルCIA副長官、マイク・ペンス副大統領、ジェームズ・マティス国防長官、ダン・コーツ国家情報長官、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長、ジョン・ケリー大統領首席補佐官に駐米韓国大使を加えた計10人で会談した。マイケル・ポンペオCIA長官は出張中で不在だった。
トランプ大統領とは翌9日会談の予定だったが、10人に対してすぐに大統領から「執務室へ来るように」とのメッセージが伝えられた。
実は「金親書」の内容は米情報機関がいち早く得ていた。韓国国家情報院からCIAに報告があり、ポンペオ長官がトランプ大統領に直接連絡したに違いない。
鄭室長が、トランプ大統領が米朝首脳会談に出てくれたら「歴史的な局面打開」ができる、との金委員長からの招待を伝えると、大統領はその場で合意し、韓国側だけでなく、米政府高官らも驚いた、と3月10日付ニューヨーク・タイムズ紙は明らかにしている。
マティス、マクマスター両氏は「リスクがある」と注意を促したが、大統領は「分かった、分かった」と退けたという。マティス、マクマスター両氏は事前に情報を得ておらず、大統領から相談にも与らなかったことになる。
しかし、ポンペオ長官が事前に大統領と北朝鮮問題で話し合っていたのは確実だ。
3月16日付ニューヨーク・タイムズ紙によると、会談準備の交信はCIAと北朝鮮情報機関「偵察総局」の間で「あるチャンネルを通して」行われている、と報じられた。「チャンネル」とは、恐らく韓国国家情報院のことだとみられる。
準備作業でCIAが主要な役割を演じているのは、やはりポンペオ長官が首脳会談開催に向けた立役者だったことを示唆している。
この間、大統領とうまくコミュニケーションできなかったレックス・ティラーソン国務長官とマクマスター補佐官が解任されたのは象徴的だった。