米朝首脳会談を前に北朝鮮は“非核化”というカードをちらつかせている。
一方で、北朝鮮には過去にも核の開発凍結や放棄の約束を破ってきた「裏切りの歴史」がある。
最新刊『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』で著者の五味洋治氏は、核兵器とそれを運ぶミサイル開発が金正恩の力の源であるとして、その開発の最新事情を丹念に追っている。例えば2017年だけで15回発射された弾道ミサイルは、北朝鮮国民に1年間最低限の食料を配給できる金額をつぎ込んだとも言われる。それほど金正恩は核・ミサイル開発にかけているのだ。
そんな金正恩をトランプが非核化に導くことは本当にできるのだろうか。著者の五味洋治氏が北朝鮮の核開発の歴史から読み解いた。
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金正恩は「核の盲信者」
米国と北朝鮮が首脳会談に合意したというニュースは世界を驚かせた。北朝鮮の“非核化”が最大のテーマだ。しかし北朝鮮は生き残りをかけ、半世紀以上かけて核開発を進めてきた。過去にも、核開発をやめると言いながらやめなかった「筋金入りの確信犯」だ。「首脳会談」という賭けに出た金正恩に対し、外交経験の浅いトランプ大統領に秘策はあるのだろうか。
合意発表の直後、初めてカメラの前に姿を見せたトランプは、「北朝鮮はとてもうまくやるだろうし、われわれは大成功を収めるだろう」と報道陣に語り、会談の成果に自信満々なところをみせた。
「会談は5月までに開く」というが、場所も決まっていない。「成功」をことさら強調するところをみると、トランプも内心は不安でしかたないのかもしれない。
それもそのはずだ。金ファミリーの、核兵器への執着ぶりは尋常ではない。
私は新刊『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』のなかで、金正恩の最大の武器である核・ミサイル開発の最前線を追った。北朝鮮はGDPに占める軍事費比率が23%という、世界一の「スーパー軍事国家」である。
そしてこの本の中でも紹介しているのが、2016年に北朝鮮で出版され、品切れになるほどの人気を集めた実録小説「野戦列車」だ。この小説を書いたのは、北朝鮮を代表するゴースト・ライター集団のひとり、ペク・ナムリョンという作家である。
小説の中に、金正日・正恩親子のこんな会話が出てくる。
金正日「外交戦における勝負は、……国力と軍事力なのだ。拳(こぶし)が強ければ、言い争いをしなくても良いのだ。外交の命である自主性と尊厳は、力の裏付けなしに守ることはできない」
正恩「心に刻みます。私は、わが国を大国と堂々と渡り合える政治軍事強国にしてくださった将軍(=金正日のこと)の先軍政治を、命を賭けて掲げて行きます。核の列強が屏風のように朝鮮を取り囲んでいる今日、強力な軍事力、核抑止力だけがわれわれの尊厳と東北アジアの平和を守ってくれることでしょう」
この発言を見る限り、金正恩は「核の盲信者」だ。この本は情報統制の非常に厳しい北朝鮮で一般に流通しており、正恩の考えが反映していると考えていい。