大病を患い、2度の手術も…
実生活では、50代になって大病で2度の手術を経験するなど、精神的にも肉体的にもあまたの試練を乗り越えてきた。今村昌平監督最後の長編映画『赤い橋の下のぬるい水』(2001年)で、監督の要望を受け、老け役に挑んだのはちょうどこのころだ。現実にも、この数年後に娘が子供を儲け、祖母になっている。
年齢を重ねるにしたがい、それ相応の役も増えたが、昨年放送のドラマ『六本木クラス』での不動産業界の大物経営者の役など、なおもかっこいい女性を演じ続けている。SKD時代にダンスで修練したおかげでいまなお姿勢がよく、逆におばあさん役などで背中を丸める姿勢のほうが苦しいという。ただ、昨今の若く見せることにことさらに固執する世間の風潮には抵抗を感じているとも語る(『ゆうゆう』2014年8月号)。
それゆえ、倍賞自身はシワを隠したりはけっしてしない。《これまで体験してきたことすべてが今の私を形作っている、と私は思っています。シワ1本にも、笑ったり泣いたりしてきた私の人生が刻まれている。だから、シワは私の年輪なの》として、《シワを否定すると、自分の人生を否定しているみたいじゃない。(笑)》とまで言い切る(『婦人公論』2009年4月22日号)。
「エロスっていうのは…」
そんな倍賞は、自分の目指す女性像として「左手に菩薩、右手にマリア、加えてエロス」とことあるごとに公言してきた。もっとも、12年前、64歳のときのインタビューでは《エロスの部分だけ妙に持っていかれちゃうから最近は言わないようにしているんですけど(笑)、エロスっていうのは、言ってみればチャーミングということなんです。“ぷっ”という部分。どんな人でも、その人の人間性から思わずにじみ出てくるような愛嬌がないと、魅力的じゃない》と説明している(『ゆうゆう』2011年7月号)。この言からすると、70代後半に入り、ますます人間的魅力がにじみ出る倍賞には、今後もエロスが尽きることはきっとあるまいと、そう思わされる。