「ハワイでラーメンを頼んだら1杯で2000円もした!」

 近年、海外の物価に驚く日本人が増えた「あまりに悲しい理由」とは? 経済ジャーナリストの渋谷和宏氏の新刊『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』(平凡社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

ラーメンを代表するように近年、海外の物価に驚く日本人が増えた理由とは? ©getty

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「賃金が、10年近く据え置かれたままなんです」

 メーカーに勤務する中堅社員・田中聡史さん(39歳・仮名)の声をお聞きください。

「私は、最大手ではありませんがそれなりに知られた国内のメーカーに勤務しています。新卒で入社した時にはいい会社に入れたかなと思ったのですが、今は胸の内がモヤモヤしています。若手時代を経て、中堅社員として役職に就いてから、賃金がほとんど増えていません。10年近く据え置かれたままなんです。

 私の会社では、係長に相当する等級以上の社員は一人ひとり、半期ごとに期間の実績や取り組みを自己申告シートに書き込み、4段階で査定・評価されるのですが、最上位の評価を得ないと賃金が上がらない仕組みです。上から2番目の評価で現状維持、3番目以下では減らされてしまいます。最上位の評価を得る社員はほんの数%です。そんな人たちにしても最上位を続けて取ることは稀なので、賃金が増えている社員はほとんどいないと思います。

 会社の経営が苦しいわけではありません。一時期は赤字に陥りましたが、今では業績は決して悪くなく、それなりの利益をきちんと出しています。中国での販路開拓がうまくいったのに加えて、私たちの人件費を削ったり、交通費や会議費などの諸経費を切り詰めたり、研究開発に振り向ける予算を絞り込んだりした結果です。私たちも身を切ってきたんです。会社にはそんな努力に少しでも報いてほしいと切望していますが、私たちの想いが叶う予感は今のところまったくありません。

 私は管理部門に所属して、労務管理の仕事に就いています。今の仕事が嫌いではありません。常にではないですが、やりがいを感じることもあります。しかし先ほど言ったようにモヤモヤが晴れないんです。若手時代のように100%前向きな気持ちで仕事に取り組めません。仕事に没入することにためらいを覚えてしまう自分がいるんです」