もしもタイムリープできるなら、ぜひのぞいてみたい光景がある。きっとそこには息を呑むほどの迫力とドラマがあるに違いない。それは、あの幕末の英雄・坂本龍馬とその盟友・桂小五郎による“伝説の剣術大会”だ。『竜馬がゆく』6巻を読んだとき、その“伝説の剣術大会”を読者は追体験することになる。
▼▼▼
『竜馬がゆく』とは、歴史小説の巨匠・司馬遼太郎先生による同名タイトルの小説が原作だ。初のコミカライズとなる本作は、あの『コウノドリ』の鈴ノ木ユウ先生が漫画を手掛けている。竜馬(坂本龍馬)の幼少期から始まり、剣術修行のため江戸へ、そして彼の人生を大きく変えたと言っても過言ではない黒船襲来など、精緻な筆致で描かれる彼の軌跡。5巻の後半から突入した、例の“伝説の剣術大会”は6巻でクライマックスを迎える。
北辰一刀流千葉道場の竜馬、対するは神道無念流斎藤道場の桂……江戸三大流派の意地とプライドをかけた大勝負は、近年の研究では「そんなものは存在しなかった」「勝敗の結果が資料によって異なる」など、さまざまな説が浮上している。だが、歴史のヒーローとその盟友が一戦を交えるという展開はまるで王道の少年マンガのよう。だからこそ、史実や勝敗の結果がどうであれ、史実であって欲しいという願いも込みで、過去に戻ってのぞいてみたいと思ってしまう。
『竜馬がゆく』で描かれる“伝説の剣術大会”は、その願望に応えてくれるかのような臨場感と迫力で満ちていた。
まるで胸ぐらを掴まれているかのように、次へ、次へとページをめくりたくなるような竜馬と桂の試合のシーン。静止画とは思えないほどの勢いと緊張感に満ち溢れており、なんだかページをめくる指先から振動を感じるような……そんな錯覚を覚える。もしも当時にタイムリープできたのなら、そして本当にこの剣術大会があったのなら、こんな光景を目撃できたのではないかと、遠い昔の出来事に期待と夢が膨らむ。
試合の場面での白眉は、勝利にしがみつく両者の良くも悪くも「なんでもあり」な戦い方。例えば、とんでもない跳躍力で相手に飛びかかったり、最終的には頭突きで対抗したり……そこにはマンガらしい高揚感があって読むたびに心が躍る。
戦うということは必ず勝者と敗者が存在するわけだが、どちらが勝利を掴むのか。そして、決着がついた後に交わされる言葉とは? 遥か昔を想像し、思いを募らせながら読んでみてほしい。