全教員が「子どもから学ぶ」という逆転
もちろん一斉授業からの脱却は、どの国にとっても簡単なことではなかった。教師たちが学習科学・人文科学に精通する必要があり、大学院教育が必須になる。現在、修士号なしに教師になることのできる先進国は日本以外存在しない。また、専門職とは週一で研修を行わねば実践の水準を保てないことが明らかになっており、例えば、大きい病院の外来診療表をみると必ず週一で休診日があるが、その日はその科の医師が全員集まり、カンファと呼ばれる研修を行っている。同様に、教師にとっても、校内の全教員で一つの授業を見て協同的に「子どもから学ぶ」レッスンスタディ(授業研究)が、新しい授業づくりには必須となる。
厳しい勤務環境の中、週一とはいかずとも月一(多い学校は月二)で「全教員で子どもから学ぶ」レッスンスタディを行う学校が、教育学に精通した校長のリーダーシップにより、小中で10%程度、高校で0・5%程度、全国に存在する。そのような学校では、教師たちは授業の専門家として、子どもから学び続けることで子どもの学びを促進し、困難な子どもが探究と協同の中で育ち感謝してくれる喜びの中で教職をつとめている。8代の校長に渡ってこのような現代的な学校づくりを続けている学校もあり、そこでは、教員不足などどこふく風、卒業生の教育実習生であふれている。子どもから学ぶ専門家としての教師、授業と授業研究を第一優先とした学校づくり、これを政策レベルで実現することが急務である。
参考文献:佐藤学『専門家として教師を育てる』岩波書店、佐伯胖他著『ビデオによるリフレクション入門』東京大学出版会
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2024年の論点100』に掲載されています。