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 フルトンとの不敗対決は、井上本人が14年のナルバエス戦と22年のドネア第2戦とともに「自己ベスト3」に選ぶ会心の試合だった。井上にしてはミス・ブローも少なくなかったが、それも試合巧者のフルトンが井上を研究していたがゆえ。8回のストップに繋がった左ジャブのボディから右ストレートをアゴにさく裂させたコンビネーションは絶妙だった。また井上は終始フルトンにプレスをかけ続けたが、それにも「あまりかけ過ぎると相手が逃げに回ってしまうので、加減した」という趣旨の発言をしている。互いに高度な技術戦、心理戦を駆使した結果、井上の劇的勝利を生んだのである。

井上尚弥 ©文藝春秋

タイソンやパッキャオが井上を「スペシャルなボクサー」

 米国の老舗専門誌『リング』がPFPランキング1位に井上をランクして話題になったのは22年6月のことだった。このランキングは現役選手を対象に、あらゆる階級を一定として誰が最強かを評価するものだが、日本選手がトップ10入りするのもごく稀だったのに、1位獲得は井上以外なし得ないことだった。

 試合映像がSNSで世界中どこでも手に入るようになったいま、ナオヤ・イノウエは欧米のボクシング界でも存在感を増し、日常的に語られるようになった。マイク・タイソンやマニー・パッキャオらレジェンドたちが井上について「スペシャルなボクサー」だと絶賛し、フェザー級以上の現役王者たちも井上との対戦を熱望するコメントを発する。過去には考えられない現象である。

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 タイソンのトレーナーを務め、コメンテーターとして活躍するテディ・アトラス氏はXで、井上は1930~80年代にかけて活躍した歴代のグレートたちに匹敵すると称賛し、「スピード、パワー、賢さ、ボクシング頭脳、闘争本能、タイミング」といったボクサーの評価点をすべて備えると評している。