メジャーリーグの大谷翔平と同じように、いま日本はもちろん海外でも驚きをもって迎えられているのがボクシングの井上尚弥である。初代の白井義男以来、これまで日本のボクシング界から誕生した世界チャンピオンは男子だけでも90人を超えるが、世界的に井上ほど高い評価を受けているチャンピオンはいない。

 プロで23戦全勝20KO。すでに3階級で世界王座を獲得。23戦中18度が世界タイトルの懸かった試合というのも凄いが、極めつけはこれだった。2022年6月7日のチャンピオン統一戦で伝説の王者ノニト・ドネアを2回KOに仕留める圧勝でバンタム級3団体目のベルトを手にした直後、米国の老舗ボクシング専門誌『リング』が井上をパウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングの1位に抜てきしたのである。

井上尚弥 ©文藝春秋

相手を打ち倒すシーンは怪物的

 PFPとは、フライ級もヘビー級も体重を一定と仮定してボクサーの実力を評価する方法で、以前は専門誌にすら滅多に登場することがなかった。日本選手がこの夢のランキングに登場するとはとても想像できなかったからである。それが今やファン同士が当たり前のように「PFP」を口にする時代になった。これは2015年に山中慎介が日本選手として初めてランキング10位に名を連ねて以降のことである。井上は2016年に初めてランキング9位に入り、以降着々とランクを上げていた。

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 プロ転向に際し、井上尚弥に「怪物=モンスター」の売り文句を考えたのは所属ジムの大橋秀行会長である。最初は我々も本人も違和感を覚えたのだが、スタート時に今ほど怪物性を発揮できなかったのはライトフライ級では減量がきつ過ぎたからである。その後階級をスーパーフライ、バンタム級と上げてからは本領を発揮。いまや「モンスター」は井上を扱う海外メディアのどの記事にも登場する通り名となった。およそ怪物のイメージとはかけ離れた優男が豪快に相手を打ち倒すシーンはまさに怪物的であり、改めてネーミングの妙に感心させられる。