「プロのアスリートとして、羽生結弦の理想を追い求めながら頑張っていきます。どうか、これからも戦い抜く姿を応援してください」
2022年7月19日、羽生結弦(27)は都内のホテルで「プロ転向」を宣言した。そして当日のスポーツ紙で「引退へ」と報道されたことを打ち消すかのようにこう説明した。
「引退でも何でもない。ここから更に上手くなるし、『見る価値があるな』って思ってもらえる演技をするために努力していきます」
セカンドキャリアの開拓
かたくなに「引退」の2文字を否定し、「アスリート」という言葉にこだわりを見せる。彼の抱くセカンドキャリア像は、どんなものなのだろうか。恩師のブライアン・オーサーはこう説明する。オーサー自身も五輪2大会で銀メダルを獲得した、カナダの国民的英雄だ。
「プロ、アマに関わらず限界を決めずに挑戦し続ける、というユヅルらしい宣言だと思います。リタイアメントという言葉の持つニュアンスは、日本ではマイナスなイメージがあるのでしょう。僕が1988年に引退してプロになった時は、社会人としてキャリアを積めることにワクワクしましたし、実際に世界が広がりました。ユヅルならば無限の可能性を持っていますから、まだ誰も見たことのないセカンドキャリアを開拓しようとしているのでしょう」
羽生は会見で、野球を例に挙げた。プロスポーツのある競技ならば、アマからプロ入りすることはさらに高いレベルを目指すこと。しかしスケートの場合は、プロというとアイスショーのスケーターを指すのが通例だ。スポーツではなくエンターテインメントと分類され、ジャンプの成功より、表現力や演出を追求していくことになる。実際に荒川静香も浅田真央も、引退後は自らが座長となるアイスショーを立ち上げ、セカンドキャリアを成功させている。しかし羽生は、さらなる付加価値を求めた。
「アイスショーって華やかな舞台でエンターテインメントのイメージがあると思うんですけど、もっと僕はアスリートらしくいたい。難しいことにチャレンジして、戦い続ける姿を皆さんに見ていただきたいと思っています」