井上尚弥の今後は
さらにその評価をアップさせたのが18年から19年にかけて行われたWBSSのバンタム級トーナメントの優勝だった。世界チャンピオン、あるいはチャンピオン級ばかりが出場する注目のトーナメントで井上は3人の新旧世界王者を破りモハメド・アリ杯を手に入れた。決勝のドネア戦では2回に老獪なドネアに右目を切り裂かれ(眼窩底骨折が判明)苦戦を強いられたが、それでも終盤にダウンを奪って文句なしの判定勝ちだった。もし2回のアクシデントがなければ、ドネアとの2戦目と同じような井上の圧勝に終わっていたに違いないが、それでは6月の再戦もなく、PFP1位になるにはもっと時間がかかったかもしれない。
では井上尚弥の今後はどうなるのか。まずは12月13日、有明アリーナでのWBO王者ポール・バトラー相手のチャンピオン統一戦。バトラーもれっきとしたチャンピオンではあるのだが、ドネアに圧勝した今の井上には勝って当たり前の相手としか思えない。今の井上は誰との対戦でもそう思われてしまい、本人もそれが当然と受け止めているフシがある。
これをクリアして世界の主要4団体公認のチャンピオンとなれば、バンタム級でも体重維持が楽ではなくなっていることから、S・バンタム級に転向し4階級目の世界王座を目指すことになろう。
29歳のいま、モンスターには衰えの兆候はみられない。これまで本人が明かしてきたプランは、「フェザー級まで」「35歳ぐらいまで現役でいたい」というものだった。いまのところ、このプラン通り順調に進んでいるといえよう。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2023年の論点100』に掲載されています。