「週刊文春CINEMA」の≪BEST CINEMA 2023≫第1位は、グレタ・ガーウィグ監督&脚本、マーゴット・ロビー製作&主演の『バービー』。ハリウッドの定説を覆し、全米で大ヒットした作品の奥深さに注目!

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女性監督作としては既に史上最高の興行成績も記録

 アメリカでは、公開から26日で興行成績が5億3740万ドル(約800億円)を記録し、『ダークナイト』(08年)を抜いて、ワーナー・ブラザース100年の歴史で史上最高を記録してしまった『バービー』。グレタ・ガーウィグ監督&脚本、マーゴット・ロビー製作&主演の今作は、女性監督作としては既に史上最高の興行成績も記録している。

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 バービーは、人形としては有名だが、今作はスーパーヒーローものでも、『スター・ウォーズ』でもない。つまり書き下ろし脚本の作品をスタジオが制作すること自体稀な時代に、定説を打破し今世紀最大とすら言える現象を起こしてしまったのだ。

すべてが完璧な「バービーランド」(公式サイトより)

現実世界へ旅に出たバービーが出会ったものは…

 それでは、今作が表現しようとするのは何か? それは、自分の存在意義についてだ。つまり、ピンクでキラキラなイメージからはかけ離れた哲学的で深いテーマ。全てが完璧で、毎日がダンス・パーティの彼女たちの世界を舞台に、ロビー演じるバービーが、「“死ぬ”ってどういうことなの?」と言った瞬間に物語が始まる。ここが監督の天才的なところだ。翌朝目覚めたバービーは、踵が床について、足の裏が真っ直ぐになっていた。完璧ではなくなっていたのだ。その理由を探しに、バービーは現実世界に旅に出る。そこで見つけたものは“家父長制”だった。

バービー自身の成長物語でもある(公式サイトより)

 ガーウィグが、この物語を思いつくきっかけになったのは、マテル社を見学し、そこで1992年に発売された大統領バービーを見たことだった。作中のバービーランドでは「バービーは何にだってなれる」というメッセージを掲げ、女の子たちに希望を与えてきた。しかし、現実世界に女性大統領は存在せず、女性の権利も#MeTooムーブメント以降、社会の大きな問題のひとつとして注目されているにすぎない。この作品が素晴らしいのは、ここ数年才能ある女性監督が描いてきたトクシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)への反抗を、愛あるコメディにしてみせたことだ。