『東京タラレバ娘』や『偽装不倫』など多くの名作を生み出した東村アキコ氏が、「文藝春秋」1月号の巻頭随筆に寄稿。目次ページを彩る絵も描いてくれました。東村さんがその“目次絵”に込めた想いや、日本の美についての書き下ろした巻頭随筆を、「文藝春秋 電子版」が1周年を迎えたことを記念し、特別に公開します。

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東村アキコ氏©文藝春秋

 漫画の仕事を始めて、気がつけばもうすぐ四半世紀。少女漫画家としてデビューして以来、常に今を生きる女性に心を寄せて作品を描いてきました。幼稚園で自由画帳やチラシの裏にお姫様の絵を描いていた頃からずっと、私の絵師としての魂は女性美を描きたいと欲しています。思えば地元宮崎の親戚宅や旅館に何気なく掛けられた美人画に見惚れるような子供でした。金沢美術工芸大学では油画専攻でしたが、日本画の技法を学んだり、女性をモデルに美人画のような油画を制作したりもしました。

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 大学卒業後はアートから遠ざかっていましたが、いつかまた向き合いたいと思っていました。ありがたいことにこれまで締め切りがなかった時期がなく(多い時は6本の連載が同時進行していたことも。今は漫画誌の連載が2本と、スマホで読む縦スクロール漫画の新作を準備中です)時間的余裕がありませんでしたが、新型コロナウイルスで一変。食事会や講演会、取材旅行、出張、イベントがなくなりました。東村プロダクションは6年ほど前からiPadでデジタル制作しているので、日中はアシスタントも含めリモートで漫画を描いていましたが、夜の予定が真っ白になったことは経験のないことでした。

 息子が寝たあとリビングでひとり、心ゆくまま描いたのは、着物姿の女性でした。40歳を過ぎてから茶道を習っていて、コロナの脅威に世間がざわざわし始めた頃のお稽古で姉弟子が着物に和柄のマスクを合わせていた姿が印象的で、まずそれを絵にしました。描き上げるともっと描きたくなって、夜な夜なiPadに向かいました。

 20代で着付けの免状を取りましたが、お茶をきっかけに実地で着物を学ぶようになった時期でもあり、着物の柄が表す季節やシチュエーションと現代女性の心模様をマッチさせて、1枚ごとに漫画1話分くらいのストーリーを込めて創作しました。絵の中の女性は伝統的な柄の着物を纏いつつ、スマホを持っていたり髪色がピンクだったり。これは令和の美人画だなと思うようになり、「NEO美人画」が私の中のテーマになりました。