15歳の少女の遺体は首を切断された状態で発見された。湖畔に無造作にうち捨てられた胴体のその先は、岸辺の岩の上にちょこんと乗せられていた。被害者は事件が起きた栖苅村で信仰されている生き神、“スガル様”の次期候補として修業をしていた。迷信深い村人たちは「聖地が穢された……」「次期スガル様が……」と口々につぶやき、動揺をみせていた――。
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12月8日に単行本が発売となったマンガ『隻眼の少女』は凄惨な事件現場に主人公が遭遇するシーンから幕を開ける。どこからともなく、よれよれの袴を穿いた鳥の巣頭の名探偵が人懐っこい笑顔で登場してきそうな舞台設定だが、本作で探偵役を務めるのは題名にもなっている“隻眼の少女”御陵みかげである。
原作小説の『隻眼の少女』は2011年に本格ミステリ大賞と日本推理作家協会賞をW受賞した傑作ミステリだ。その緻密な論理と大胆な真相が多くの読者を驚嘆させ、累計発行部数は20万部を超えるベストセラーとなっている。
ミステリ小説原作ならではの制作過程をコミカライズの企画を立ち上げた編集者Kが振り返る。
「原作者の麻耶雄嵩さんにご協力いただきながら、舞台となる琴折家の見取り図や家系図を作っていきました。文字で読むだけでは整理が難しい人間関係や、屋敷内の構造が絵になることで、分かりやすくなったと思います。ミステリって難しそう、と苦手意識がある人こそ楽しんで欲しいですね」
入念に準備された舞台設定は、漫画家pikomaro氏の作画によって見事にその姿を現す。閉塞感のある日本の寒村、旧家の一族、村の因習に見立てた殺人、と横溝正史のミステリのような作品世界がそこにある。さらに血の匂いが漂ってくるような犯行現場の描写は、事件の悲惨さを強調するとともに、犯人が残した証拠を描いた“手がかり”にもなっているのだ。
もちろん、本作最大の読みどころは狡猾な犯人とそれを追う探偵の頭脳戦だ。探偵や警察の裏をかくように次々と犯行を重ねる殺人鬼のトリックは暴かれるのか。そして、マンガになることでより衝撃的になった最後の場面とは――。原作ファンも原作未読の方もぜひその目で確かめてほしい。