それでも本作は、人が誰かの感情を演じることや、物語をかたちにしていくことで、人生がひらかれていく可能性も描き出した、希望のある作品だと思った。これからの自分にとっても、出会えて良かった一本である。
INTRODUCTION
映画製作の舞台裏を描いた作品には名作が少なくないが、その列にまた一作が加わった。貧しく荒れた地域に都会からやってきた撮影隊が、地元の問題児を映画に出演させることになった。監督の過剰な演出や、出演者とクルーの恋愛、ジェンダー、貧困、地元住民の反発など、いくつもの騒動を起こしながら撮影は続いていく。地域を巻き込んだ映画製作はときにコミカルだが、モラルや格差など現代的かつ複合的なテーマを浮き彫りにする。実際にオーディションで選ばれた地域の子どもたちの見事な演技が印象的だ。『PLAN 75』などをおさえ第75回カンヌ映画祭「ある視点」部門グランプリを受賞した話題作。
STORY
フランス北部の荒れた地区を舞台にした映画が企画され、地元の少年少女を集めた公開オーディションが開かれる。選ばれたのは、異性との噂が絶えないリリ、怒りをコントロールできないライアン、心を閉ざしたマイリス、そして出所したばかりのジェシーの4人のティーンエイジャーたち。「映画の登場人物」を演じることで「自分自身」と向き合うことになったライアンたち。はじめての体験に格闘し、違う世界に飛びこむことで、彼らのなかの何かが少しずつ変わっていく。
STAFF & CAST
監督:リーズ・アコカ、ロマーヌ・ゲレ/出演:マロリー・ワネック、ティメオ・マオー、ヨハン・ヘルデンベルグ、ロイック・ペッシュ、メリーナ・ファンデルプランケ/2022年/フランス/100分/配給:マジックアワー/全国順次公開中