来月17日で81歳になるマーティン・スコセッシが、あいかわらずお元気だ。今月全世界公開された最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は、製作費2億ドル(約300億円)、上映時間3時間半の野心作。
2017年に出版された同名のノンフィクション本を映画化する今作は、100年前にオクラホマ州で起きた、白人による先住民オセージ族に対する凶悪な犯罪を描くもの。オセージ族の人々や文化を忠実に描くため、スコセッシは現地に足を運んでミーティングを持った。
脚本がラブストーリーに変化したワケ
「初めてのミーティングでは、オセージ族のチーフをはじめとする何人かの代表に会った。当然のことながら、彼らは注意深かったよ。私たちは、この話をできるだけ事実のままに語りますと彼らを説得した。
そんな中で、(本作の主人公として描かれる)アーネスト・バークハートの親戚であるマギー・バークハートは、私の作った『沈黙―サイレンス―』を観たこともあって、私を信頼してくれるようになったようだ。彼女は私たちに、アーネストはモリーを愛していたし、モリーはアーネストを愛していたと言った。これはラブストーリーなのだと。そこから脚本が変わっていったんだ」
第一次対戦後、叔父ウィリアム・ヘイル(ロバート・デ・ニーロ)のいるオクラホマ州に引っ越してきたアーネスト(レオナルド・ディカプリオ)は、タクシーの運転手として働くうちに、客のモリー・カイルと知り合う。居住地区に石油が出て突然大金持ちとなったオセージ族の女性と結婚したがる白人男性は珍しくなく、アーネストもモリーにプロポーズをする。だが、それら先住民の女性らは次々に謎の死を遂げ、やがてモリーの周辺にも恐怖が及んでいく。
美しい場所は邪悪にもなりうる
実際にオクラホマの風景を見ると、ここでそれらの事件が起きたことを、スコセッシは納得できた。
「私はニューヨークのロウアー・イーストサイド育ち。都会の人間なので、太陽がどこに沈むのかも意識しない。30年ほど前、ロサンゼルスを車で移動していて太陽が西に沈むのを見て、『ああ、だからサンセット通りと言うのか』と妙に納得したものだ。オクラホマには広々とした草原、まっすぐの道があり、野生の馬や牛が歩いている。その景色を見ながら、どこにカメラを置こうか、空をどれだけ、草原をどれだけ入れようかなどと考えたよ。
そうしているうちに、ここには法など要らないのだと気づいたんだ。いや、法律はあるんだが、きちんと機能しないと言うのが正しい。美しいこの場所は、非常に邪悪にもなりうる。私はそれをとらえたかった。のんびりしているところに癌、あるいはウィルスが生まれ、静かな大虐殺が起きていく様子を」