インタビュー終了後、無言で両腕を大きく広げ…
小泉さんはかつて読売新聞で書評を連載していた。雅子さんはそれを夫婦で一緒に読むのを楽しみにしていたという。目の前で「友だち」として語ってくれた小泉さんに、雅子さんは感謝の気持ちを伝えた。
「夫も喜んでいると思います。『マサコちゃん、よかったなあ』って。この部屋の中に夫も来ているような気がするんですよね。『マサコちゃんばっかり、いいなあ』って言ってるかも」
俊夫さんは、今年亡くなったミュージシャンの坂本龍一さんのことが大好きだった。その坂本さんと親交があったという小泉さんは、雅子さんに語りかけた。
「俊夫さん、あちらで坂本さんのコンサートに行ってるんじゃないですか。坂本さんの訃報を聞いた時、俊夫さんのことをふっと思ったんです。大好きな先輩ですごく優しい方だったから、一緒にお話ししてるんじゃないかなって……」
インタビューが終わり、帰途につく小泉さんと、見送りに後を追う雅子さん。小泉さんは出口の前で急にくるっと体ごと振り返り、雅子さんと正面から向き合った。しばらく見つめた後、無言で両腕を大きく広げ雅子さんに近づくと、体に腕を回しギュッと抱きしめた。一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに抱きしめ返す雅子さん。そのまま30秒ほど2人で抱き合っていただろうか? 小泉さんが腕をほどいて離れると、雅子さんはつぶやいた。
「私、もうこれで死んでもいいかも……」
すると小泉さん、何事もなかったように冷静な表情で、
「ダメよ、ダメダメ。……見送りはここでいいですから」
そう言い残すと、一人颯爽と夜の闇へ歩み去っていった。アイドルの“カリスマ”を漂わせながら。ドラマの1シーンのような鮮やかな別れだった。
写真=三宅史郎/文藝春秋