また、主人公は勇者ではなく、ファンタジーでは脇役として描かれることの多い不老長寿のエルフであり、人間とは異なる時間感覚を持ったフリーレンの視点から世界を描こうとしている。それは漫画表現にも強く反映されている。
第2話。勇者ヒンメルの葬儀に参列したフリーレンは、自分がヒンメルのことを何も知らなかったことに愕然とし「…人間の寿命は 短いってわかっていた のに…」「…なんでもっと知ろうと思わなかったのだろう…」と言って涙を流し、人間を知るために新たな冒険の旅に出ることを決意する。
圧倒的な画力とじんわりと泣かせる物語を描いた第1話の完成度は圧倒的で、何度読み返しても見事だと感心するのだが、同時に他の漫画とは違う異質な手触りが気になった。
その異質さが気になり繰り返し読む中で、本作は漫画ならではの誇張した表現が抑制されており、動きを表す流線のたぐいがほとんど使われていないことに気づき驚いた。
『フリーレン』は、背景もキャラクターも精密に描き込まれており、一コマ一コマが一瞬の動きを捉えた写真のようになっている。そのため、フリーレンたちの旅の想い出の写真が掲載されたアルバムを眺めているような気持ちになる。
「!」がつく台詞が極端に少なく、オノマトペも最小限
何より独特なのが劇中の音に関する描写だ。
ガサッ、ドカッといったオノマトペは最小限に抑えられており、劇中で鳴る音は抑制されている。また語尾に「!」がつく台詞が極端に少ない。そのため、どのキャラクターも冷静に淡々と喋っているように見える。
少年漫画では各キャラクターの喜怒哀楽を強調したいという意図もあってか、台詞に「!」と「?」が多用されており、むしろ「!」と「?」の応酬で成り立っていると言っても過言ではない。
たとえば、週刊少年ジャンプで連載されている尾田栄一郎の人気漫画『ONE PIECE』(集英社)では、主人公のルフィの台詞は「!」が連呼されており「!!!︎」と、3つ付く場合も少なくない。そして、見せ場となる場面では「ドン!!」といった効果音が多用される。会話もボケとツッコミの応酬で激しく怒鳴りあう場面も多く、とにかく画面が賑やかである。