東京地検特捜部が、ついに最大派閥・安倍派に切り込んだ。疑惑の広がり、深さから「令和のリクルート事件」とも呼ばれる政治とカネを巡る構造不正。かつて安倍派を率いた故・安倍晋三氏は総理時代、森友学園、加計学園、桜を見る会などの疑惑もあったが、検察の追及を大過なく切り抜けてきた。一体なぜ、ここにきて安倍派に捜査のメスが入ったのか。

毎日新聞、朝日新聞の記者として大型経済事件や政界を巻き込む疑獄事件などを取材。2017年にフリージャーナリストに転身した“特捜検察取材歴40年”の事件記者・村山治氏は、安倍政権が検察人事に介入してきた歴史を詳らかにした。(文中敬称略)

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3年前の「黒川弘務・林真琴騒動」

 安倍派が検察捜査のメーンターゲットになったことで、永田町周辺ではさまざまな臆測が飛び交った。ベテラン政治記者の山田孝男は12月18日の毎日新聞のコラム「風知草」で「捜査の背景に政官関係の変質がある」とし、「いまも安倍政権が続いていれば、検察は安倍派に手を出せなかっただろう」と指摘した。

 政治と検察を巡っては、安倍派のオーナーだった故・安倍晋三の政権が、検察首脳人事に介入した3年前の「黒川弘務・林真琴騒動」がまだ記憶に新しい。人事を巡る法務・検察高官の政権への忖度疑惑が取り沙汰され、検察も国民の厳しい批判を浴びた。

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 2012年暮れ、民主党から政権を奪還した自民党の安倍政権は、政治主導の名のもとで官僚グリップを強化した。その少し前、検察では大阪と東京の両地検の特捜部で捜査をめぐる不祥事が発覚。国民から厳しい批判を受けていた。郵便不正事件での証拠改ざんと、民主党代表の小沢一郎に対する検察の不起訴を審査する検察審査会に事実と異なる捜査報告書を提出していたことだ。検察は抜本的な改革を迫られていた。

 このとき、関連の法改正や予算折衝などで政界ロビーイングの先頭に立ったのが、法務省官房長の黒川だった。政権は話がわかる検事と受け止め、彼を重宝した。

安倍政権との近さが取り沙汰された黒川氏 ©時事通信社

 実際に安倍政権が検察首脳人事に口出しを始めるのは、2016年9月の法務事務次官人事からだ。法務・検察が「3代先の検事総長に」と予定していた、刑事局長の林を事務次官に起用する人事案を政権が拒否。林と検事任官同期で官房長の黒川の起用を求めたのだ。

 そして「1年後には林を次官にする」との感触を政権から得た法務省は、黒川を次官に起用した。だが政権は林を次官にしないまま2018年1月、検察序列ナンバー4の名古屋高検検事長に転出させた。そのうえで黒川を2019年1月、検察ナンバー2で検事総長テンパイポストとされる東京高検検事長に起用した。