自殺から殺人まで、強烈な死臭に襲われる事故物件には、仏門も神職もあまり近づきたがらないという。しかし、照天神社の宮司である金子雄貴さんは、これまで1500件以上の事故物件のお祓いに真摯に向き合ってきた。
ここでは金子さんがその体験をまとめた『はぐれ宮司の 事故物件 お祓い事件簿 1500件超の現場を浄化!』から一部を抜粋。殺人が起きた一軒家の庭の木が、すべて輪切りにされていた恐ろしい理由とは――。(全4回の4回目/最初から読む)
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奇妙な庭の木
2021年の秋に、神奈川県茅ケ崎市で起きた殺人現場のお祓いを依頼されました。
わたしが訪れたのは、住宅街に立つごくありふれた普通の一軒家でした。築40年くらいの二階建てで、庭つきの一戸建てです。
依頼者の不動産屋さんによると、妻が夫を殺害したということです。殺人現場ということで覚悟して向かったのですが、自殺や孤独死の現場によくあるゴミ屋敷ということもなく、きれいな外観のお宅でした。
「あれはなんだ?」
庭を見て、わたしは思わずつぶやいてしまいました。
広い庭には、数メートル間隔で木が生えていました。しかし、それらの木にあるはずの枝や葉はありませんでした。
すべての木の枝が払われ、幹が子どもの首の高さくらいで輪切りにされていたのです。
幹だけが残された、丸太のような状態になった木が並ぶのは、奇妙な光景でした。
かわいそうに、この木はみんな枯れてしまうかもしれない。もう庭木を楽しむ気がなかったのだろうか。と、このときは思いました。
「家の中はひどい状態なので、玄関でお祓いをしてください」
依頼者から、そう頼まれました。
和室や寝室などの部屋はまだ血のりがひどく、祭壇を置けない状況だということでした。
殺人事件の現場が悲惨であることは過去の経験からも知っていましたので、玄関の前に小型祭壇を設置しました。
祭詞を唱えながらも、先ほど見た整えられた庭木の光景が、なぜか頭から離れませんでした。
「この家は更地にして、売りに出される予定です」
祭詞をおえると、不動産屋さんがわたしに告げました。