「最低でも3年は働き続けないと、どこにも転職できない」
ブラック企業に入社してしまった人間を苦しめる、呪いの言葉です。この言葉を信じて、劣悪な環境で働き続ける若者が今も少なくありません。しかし、よくよく考えてみると一体どこの誰が「3年は辞めるな」という風習を作り出したのか、誰も知らないのです。
違和感に気が付いた入社式の言葉
私は5年ほど前に就職活動を経験し、大学を卒業したのちに、とある商社に入社しました。リーマンショック後の「氷河期」だったこともあり、就職活動は非常に厳しく、面接を何十社も受けてようやく手にした内定でした。しかし入社してみると、その会社はいわゆる「ブラック企業」と呼ばれるものだったのです。
労働時間は長時間に及び、休日も関係なく出社することを強要されたにもかかわらず、残業代も手当も出ませんでした。もちろん、「有給」取得も許されません。どうしても有給を消化するのであれば、給与から1日あたり5000円を差し引かれます。「あれ、有給ってなんだろう」って感じじゃないですか。「これは何の5000円ですか」と経理の人間に尋ねても、明確な答えは返ってきませんでした。
「ブラック企業に入社してしまった」。入社して1週間も経つ頃には、先輩社員との会話や社内に漂う空気感から、そう確信しました。今思えば、入社式の日に初めて会長と顔を合わせた時には、すでに違和感に気が付いていたかもしれません。
「今の社長が辞めることが決まって、退職金を払わないといけなくなった。だから、お前らのためにお金を使うわけに行かねえんだよ」
入社初日に会長が発した衝撃的な言葉によって、「ここは普通の会社ではない」と凍りついたのです。
会長の息子が「会社に内緒で、旅行に行こう」
とはいえ、新入社員の自分には、どうすればいいのか分かりません。右も左も分からないけれど、「3年はこの職場で働き続けないといけない」ことだけは知っていました。「3年は続けないと、どこにも転職できないぞ」と、周りから耳にタコができるほど聞かされてきたからです。
しかし結論から言うと、私はその会社を5ヶ月で辞めました。直接の原因は、役員からの度重なるセクハラ・パワハラに耐えられなくなったためです。
入社して1ヶ月経った頃、役員のAから「会社に内緒で、旅行に行こう」と誘われました。Aは既婚者で、会長の息子。「さすがにそれは……」と断ろうとした私に、Aは「行きたいの? 行きたくないの? どっち?」と大声でまくしたてました。助けが求められない状況だったので、その場しのぎで「行きます」と言い、その日はなんとか逃げることができました。後日改めて「やはり、旅行には一緒に行くことができません」と断りを入れたのですが、これがきっかけでAの怒りを買ってしまいました。