文春オンライン

「14歳でデビューしてから、覚えていないことも多くて…」前田敦子(32)が語る、“この仕事は向いてないんじゃないか”と悩んだコンプレックス

『一月の声に歓びを刻め』三島有紀子×前田敦子対談

2023/12/30
note

「この仕事向いてないんじゃないか」と思ったコンプレックス

前田 え~っ(笑)。シャーマンの自覚はありませんが、確かによく考えてはいます。わかってくださっているなあ。

 私は本当に過去のことを覚えていないんです。AKB48として14歳でデビューしてから、すごく感動したことはそのポイントごとに覚えている気はするんですが、細かい感情は覚えていない。だから過去の話がぜんぜんできないので、「あのとき、こうだったよね」と言われても、「ああそうなんだ」としか返せません。思い出が少ないタイプなんです。

三島 思い出が少ないタイプ! その言葉のチョイスが面白い(笑)。

ADVERTISEMENT

前田 その場その場で考えていることがいっぱいあるので、新しいことを考えるために、過去のことをどんどんしまっているのか、なくしているのか……。

©Asami Enomoto

三島 捨てているんですね。今を生きている。

前田 そうですね。たどり着くところはすごく幸せな気がする。今が幸せだということで(笑)。

三島 演技をする時に、例えば2つのアプローチがあると言われてます。1つは、自分の過去の感情を掘り起こして自分を見つめることから始めるタイプで、もう1つは、想像でその感情を生むタイプです。自分の今までの人生と関係なく、生きてきた年齢も関係なく、とにかく役の人間を想像する。それで想像したときにどういう感情が自分の中に生まれるのかを見つめていく。

 私はどちらかと言うと後者のアプローチのほうが表現の可能性が広がると思っています。というのも、たとえば悲しい場面で自分の過去の悲しい経験を思い出しても、それは別の悲しみですからね。

前田 そうですよね。見ているほうとしてもなんだか泣こうとしているなというのがわかりますよね。私はそれができない。昔の感情が思い出せないから、実は役者には向いていないのではないかと思っていました。