三島有紀子監督が自ら脚本を書いた『一月の声に歓びを刻め』が2024年2月の公開を待っている。監督が47年間封印していた、自らが受けた性暴力を見つめ直し、それをモチーフとして作り上げた作品だ。

 作品の舞台裏や演技論、これまでのキャリアなどについて、主人公を演じた前田敦子さんと語った対談の一部を『週刊文春WOMAN創刊5周年記念号』から抜粋し、紹介する。

前田敦子さんと手を繋いで、600メートルを歩いた

三島 この映画が生まれたのもある偶然からで、『IMPERIAL大阪堂島出入橋』という短編のロケハンの際、6歳のあの日以来一度も行ったことがなかった犯行現場の駐車場をたまたま目にしてしまった。思わず「あっ!」と声に出すと、一緒にいたプロデューサーに「どうしましたん?」と言われました。「あそこが現場や」と、私は自然に事件の一部始終を話していた。

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 今ならこのテーマに向かい合えるかもしれないと思い、脚本を書き始めました。

前田 れいこがレンタル彼氏のトトに、何があったかを話すシーンは、実際にその駐車場で撮影されました。撮影前に、監督と2人でお話しする中で、ここでこういうことがあった、あそこでこう思ったということを細かく教えてくれました。

©Asami Enomoto

三島 そのとき前田さんが一度、ハグしてくれたんですよね。そして手を繋いで、600mぐらい歩きながらずっと話していた。私も後日スタッフに言われて、思い出したのですが、無意識にそうしていたんでしょう。

前田 私も不思議と手を繋いでいたことは覚えていないんです。あの場所で、監督の顔を見ただけでもうすべてが伝わってくるようだったことははっきり覚えています。2人でコソコソ喋っていましたね(笑)。監督は淡々と状況を説明してくれて、れいこに落とし込む作業を一緒にやってもらっていたんだと思います。

三島 私は演出をするとき、役者さんに演技をつけるのではなく、大阪の街の道を歩いていて横を自転車のおっちゃんが通ったり、風が吹いたりする、相手役に生まれた感情、そのすべてを感じていただいて、そのすべてのこととセッションしていただきたいんです。その感情の流れを、我々は繊細に寄り添って、つぶさに撮っていこうと決めていました。

前田 まるでドキュメンタリーを撮られているようでした。

三島 だから前田さんをよく観察していたようなものなんですが、前田さんは「思考するシャーマン」ですね。普段からずっと思考を続けている人です。なおかつシャーマンであるというのは、つまり神様なのか、突き動かされる何かの力なのか、とにかく何かと交信できる人です(笑)。