「何が幸せか」わからなくなっているこの時代に
――キムさんはどのようなご家庭で育ったのですか。
キム キリスト教の家に生まれました。朝鮮時代に、宣教師によって韓国に初めてイエス・キリストの教えが伝えられた時から大々的にキリスト教を信じてきた家系です。おばあさんのおばあさんのおばあさんの…と、遡ってずっとキリスト教を信仰し続けてきた。そういう家庭で育てられました。
――生まれつきキリスト教のご家庭なんですね。
キム そうです。ですから「アーメン」と言いながら生まれた…そんな赤ん坊だったかもしれませんね(笑)。この映画を通して、私が信じるものを理解いただければうれしいです。
――この映画を観客に、どのように観て欲しいですか。
キム 若い世代に「何が幸せなのか」を考えてもらえる作品だと思います。現在、自殺やドラッグが社会問題になっていて、若い人は「何が幸せなのか」を知らない時代になっていると感じます。この映画で脱北者が命をかけて自由を求める姿を見て「幸せとは何か」を感じて欲しいです。
脱北に成功した人たちは、韓国政府が用意した本当に小さな小さなマンションの一室で、家族が一緒に笑顔で暮らすことができて、とてつもない喜びを感じています。映画にもそういう場面があります。それを見て、自分にとっての幸せとは何かを考え、生きることへの希望を持って欲しいです。
――今、日本や世界に求めることはありますか。
キム 日本も韓国も民主主義なので「これがいい、悪い」と自由な意見を発言できる社会です。しかし、共産主義の国では自分の意思を示すことができず、これが人権問題や自由を奪われる問題にもつながっているんです。人権、そして自由がいかに貴重なものか、多くの方々に知って欲しい。そう願っています。
『ビヨンド・ユートピア 脱北』
STORY
韓国で脱北者を支援するキム・ソンウン牧師の携帯電話には、日々何件もの連絡が入る。これまでに1000人以上の脱北者を手助けしてきた彼が直面する緊急のミッションは、北朝鮮から中国へ渡り、山間部で路頭に迷うロ一家の脱北だ。幼い子ども2人と80代の老婆を含む5人の一家を一度に脱北させることは、とてつもない危険と困難を伴う。
キム牧師の指揮の下、各地に身を潜める50人ものブローカーが連携し、中国、ベトナム、ラオス、タイを経由して亡命先の韓国を目指す決死の脱出作戦が行われる。一方、韓国へ亡命した女性リ・ソヨンもキム牧師に指示を仰ぎ、北朝鮮に残る息子を呼び寄せようと奮戦するが、次第に悲劇的な状況へと追い込まれていく――。
いつどんな形で生死の分かれ目が訪れてもおかしくない、スリルとリスクに満ちたこのドキュメンタリー作品は、2023年サンダンス映画祭で上映されるも、開催直前までシークレット作品として詳細を伏せられていた。北朝鮮脱北者の過酷な旅の実態が生々しく記録された貴重なリアルスリラー作品である。
監督:マドレーヌ・ギャヴィン/2023年/アメリカ/115分/配給・トランスフォーマー/transformer.co.jp/m/beyondutopia/1月12日(金)TOHOシネマズ シャンテ、シネ・リーブル池袋ほか全国公開