北朝鮮の2024年にあたっての施政方針を決める朝鮮労働党中央委員会総会が23年12月30日に閉幕した。米中が対立し、ロシアがウクライナ侵攻を続ける今日、世界は新冷戦時代を迎えた。中国とロシア(ソ連)による庇護を受けていた冷戦の再来に、北朝鮮は安堵している。金正恩氏も中央委員会で「社会主義諸国の政権与党との関係を発展させ、変化する国際情勢に合わせて米国と西側の覇権戦略に対抗する」と語るなど、強気の姿勢を示した。
独裁政治を憂う国民も
金正恩氏に向けて熱烈な拍手を送る幹部たちの姿からは、金正恩氏に歯向かう様子は見て取れない。だが、北朝鮮内には独裁政治を憂い、社会の変化を望む人々もいる。韓国の北朝鮮人権団体「被拉脱北人権連帯」の都希侖(ト・ヒユン)代表がかつて親交を結んだ人物もその一人だった。
都希侖氏に「チェ・イサン」と名乗る人物が接触してきたのは2014年春だった。ロシア・ハバロフスクに駐在している間、韓国放送局KBSの対北朝鮮放送を聴いて、都氏の存在を知ったという。ロシアのインターネットを使ってKBSの連絡先を調べて問い合わせ、都氏の連絡先を手に入れたという。
最初は何げない会話をしながら信頼関係をお互いにつくった。チェが頻繁に連絡を取りたいと希望したため、都氏が韓国製のタブレットを、人を介してロシアに送った。後は、ダウンロードしたSNSを使い、1日1回のペースで対話を続けたという。
チェ氏が語ったこと
チェは北朝鮮観光総局の要員としてハバロフスクに派遣されていると語った。都氏はチェについて「国家保衛省(秘密警察)の幹部ではないかと感じた」と語る。チェが、国家保衛省が管轄している管理所(政治犯収容所)のシステムについて非常に詳しかったからだ。
日本人拉致問題については、被害者を直接見たことはないが、「党が一般人の立ち入れない場所に作った訓練所の教官が日本人のようだった」という知り合いの話を紹介した。チェの知人は、訓練所教官の日本語や日本についての知識からそう判断したという。
チェは「拉致被害者を連れてくるには費用もかかる。利用方法もスパイの訓練のほか、それほど多くはないだろう。被害者が数百人もいるとは信じられない」とも語っていたという。