――本当に過酷ですね。今日お会いして、映画よりもお元気そうで安心しました。
キム 映画でも紹介しているエピソードですが、北朝鮮出身である私の妻は「容姿が素晴らしい」と私に一目惚れしてくれたんです(※)。しかし、今や体の中はボロボロです。首や背骨を痛めてボルトが入っていますし、腰の手術は3回しています。孤児を救出する際に岸壁から落ちて転んだ事故では、胆嚢も摘出しています。そのため、私は韓国の障がい者カードを持っています。
※ 北朝鮮の一般男性は貧困で極度に痩せているので、肉付きのいい男性は「金一族みたいでかっこいい」と評価される。
――まさに満身創痍。脱北支援は心理的な負担も強いと思いますが。
キム もちろん精神的なプレッシャーも大きいです。脱北者は捕まれば、皆殺しにされてしまいますから。
「神様、これが最後です」と祈りながら
――キムさんのご年齢は?
キム 59…数え年でなければ、満58歳ですね。
――何歳まで現場に同行するか、決めていますか?
キム 約20年前から「神様、これが最後です」と祈ってから出発しています。ですから、実は次があるとは考えていないんですよ。でもかれこれ、支援した脱北者は1015人になりました。
――毎回「最後」のつもりで?
キム そうです。でもこの映画のように、ジャングルまで出かけてサポートするのは、まれなことなんです。いっぺんに5人家族を脱北させるということも滅多にありません。ジャングルに行くのは、本当に大変なことなのです。
――今後の展望はありますか?
キム 中国が脱北者を難民として認めてくれるようになること。脱北者が中国内で自由に行きたいところに行けるようになれば、私が現場に行かなくてもよくなるし、脱北者が命をかけてジャングルに行ったり、国境を越えたりする必要もなくなります。
――そのための働きかけをされているんでしょうか。
キム はい。アメリカに行き、中国大使館や国連本部の前でデモを行ったりしています。『ビヨンド・ユートピア 脱北』公開が後押しになって、変化が起こることを願います。
――映画の中で、元脱北者がパートナーであることや亡くなったご子息への思いが脱北支援の原動力になっていることを話していらっしゃいましたが、そのほかにも脱北支援の原動力となっていることはありますか。
キム 私は牧師です。信心の有無にかかわらず誰であろうと人を助けるのが仕事なんです。ですから、私が信仰者であること自体が原動力であり、この行動は使命だと感じています。