「生きるため」声出さずに泣く子ども
北朝鮮から脱出するには、まず北朝鮮から中国の国境を渡り、さらにベトナム、ラオス、タイと、合計4つの国境を越え、1万2000キロを移動しなければならない。途中で捕まれば即強制送還され、公開処刑が待っている。よって、脱北の全行程は息を飲む緊張感の連続だ。そんな過酷な道のりの脱北に、本作では高齢者や幼い子どもを含む5人家族が挑んでいる。
――映画はご覧になっていますよね?
キム もちろんです。
――貴重な記録映像がたくさんありました。この作品の見どころはどこだと感じられましたか?
キム 撮影は本当に命がけで行われたので、すべてが見どころではあるんですが、強いてあげるなら、5人家族のうちのジンピョン(次女)という小さい子どもが、ジャングルのメコン川を舟で渡る場面で「音を立てないで。泣いてはいけないよ」と言われているので、音を出さないよう、一生懸命に声を押し殺して泣いているシーンがあります。その彼女の抱えている別れの哀しみや不安、そして生命力、そういったものを意味深く感じたので、とても印象に残っています。
――5人家族の脱北を支えるのは困難でしたか?
キム 一番難しい、大変なケースです。例えば子どもは、かわいいものや珍しいものを見ると、反射的に大きい声を出してしまうことがあります。もし中国で北朝鮮の言葉で叫べば目立って危険にさらされます。
また、80代のおばあさんはブローカーにとっては「価値がない存在」です。人身売買してお金にもできないし、売春させて稼ぐこともできません。さらに幼い子も売買の対象にならない。伴侶と一緒にいる妻も経済的価値がないとみなされます。そのため「価値がないから」という理由でブローカーに見捨てられるようなことになれば、北朝鮮へ強制送還となりそのまま公開処刑され、死を迎えることになるんです。
1日で5キロ痩せるほど過酷なジャングル
――キムさんご自身は、今回の救出でケガはありませんでしたか?
キム この時はなかったのですが、今までの事故やケガで何度も手術をしていることもあって、体調は良くありませんでした。このジャングルに行ったことで、たった1日で5キロも痩せてしまいました。
――1日で5キロもですか!
キム 最後にタイに向かうため一家がラオスで車に乗る場面で、なぜ私が映っていないかというと、そのタイミングで30分間気絶していたからなんです。