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『源氏物語』を女の物語の系譜で読む

――本書の面白さの一つに、物語同士の響き合い、星座のような関係が描かれているところにあると思いました。光源氏のモデルは誰か、という読み解きにおいても、そこでは先行する物語とのつながりや関係が語られますよね。

木村 『源氏物語』を読むときに、当時の読者も時代のネットワークの中であれやこれやの作品と重ね合わせたり同時に読んだりしているから、私たちも同じように読んでもいいと思うんですね。例えば『紫式部日記』だけを照らし合わせていては見えてこないものがある。『源氏物語』を歴史的に語ろうとすると、『紫式部日記』や藤原道長の日記『御堂関白記』や行成の日記『権記』とのつながりのなかで語るのが一つの定石ですが、私は文学者ですし、女性たちが書いた物語の系譜の中に位置づけて読んでみたい。『和泉式部日記』や藤原道綱の母の『蜻蛉日記』や清少納言の『枕草子』など、『源氏物語』を同時代の別の作品と照らし合わせながら読むと、紫式部が何をしたかったかが見えてくる。そういう当時の物語の文脈を見せたいという思いで書きました。

蜻蛉日記(岳亭春信画)
Yashima Gakutei, Public domain, via Wikimedia Commons

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 大学の授業では『蜻蛉日記』や『和泉式部日記』なんかも読むのですが、そのなかでこの二作品はよく似ていて、『和泉式部日記』は『蜻蛉日記』から大きな影響を受けていることがわかります。『蜻蛉日記』が女性の文学作品をおとぎ話から女のリアルを描くものにガラッと転換させたとしたら、『源氏物語』はその先にある作品だから、『蜻蛉日記』との関係で『源氏物語』を読み解く必要があると思ったんです。『蜻蛉日記』のヒーローの兼家は道長のお父さんですしね。